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巨大事故解決の見通しも無い中、原子力発電所再稼働へとひた走る日本

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所要時間 約 11分

【 日本の新たな原子力発電規制基準 】
福島第一原発で事故収束・廃炉作業の見通しが立たない状況下、安倍政権は再稼働路線を推進

ニューヨークタイムズ 2013年6月18日

4号機建屋
2年前に東北地方太平洋岸を襲った巨大津波が原因となり、チェルノブイリ以来最悪の原子力発電所が起きてから初めて、全面的見直しによる原子力発電所の新しい規制基準が6月19日、決定しました。
折しも前途多難な事故収束・廃炉作業が続く福島第一原発では、新たなトラブル発生の兆しが見られる中での発表でした。

2011年に発生した巨大地震と津波は福島第一原発の施設を壊滅させ、一般国民の間に原子力発電に対する強い懸念を抱かせることになりました。
こうした状況を受け、日本国内にある稼働が可能な50基の原子炉のうち、現在は2基だけが稼働中です。
しかし安倍晋三首相は、これら停止中の原子炉の再稼働を推進する強い姿勢を明らかにしてきました。
新たな安全基準が決定したことにより、2014年の前半にも日本国内の原子炉が再稼働する可能性が現実のものとなりました。

新たな安全基準は日本の原子力規制委員会によって公表されました。
同委員会は前身の原子力監視機関である原子力安全・保安院が電力業界と癒着し、安全基準の適用について実にいい加減な対応を繰り返すという不祥事を受け、昨年新たに組織されました。

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これから各原子力発電所は津波対策を強化することを求められ、原子炉の直下の活断層の有無について調査を行わなければなりません。
そして敷地内に免震重要棟を建設、その中に緊急司令室を設け、さらには原子炉内部から有害な放射性物質の放出を防ぐため、フィルタ付きベント装置も設備しなければなりません。

以前も安全基準はありましたが、法的拘束力は無く、各原子力発電所が自主的に設定していたもので、内容は電力会社に任されていました。今回は法律として拘束力を持つことになります。

そして今回初めて福島第一原発の事故のような過酷事故の可能性について言及しています。
福島第一原発の事故で3基の原子炉がメルトダウンし、100,000人以上の住民が避難を余儀なくされました。

原子力規制委員会は停止中の原子炉の再稼働について、各方面からの圧力に直面しています。
一方で困難な状況が続いている福島第一原発の事故収束・廃炉作業は、安倍首相が唱えてやまない商業用原子炉の再稼働方針に暗い影を投げかけています。

19日には東京電力が、福島第一原発の敷地内からくみ上げた地下水から高濃度の放射性ストロンチウムを検出したと公表しました。

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東京電力は原子炉2号基近くの地下水から、国が定める安全基準の30倍の濃度のストロンチウム90を検出したと公表しました。
原子炉2号基は2011年3月に津波によって冷却装置が稼働不能に陥り、メルトダウンした3基の原子炉のうちの1基です。
東京電力は事故発生以来貯まり続ける汚染水の保管に苦闘を強いられ続けていますが、敷地内の地下水が高濃度に汚染されているという点は否定しました。

しかし最新の通常の点検によって発覚したこの事実は、タービン建屋の基礎部分では放射性物質を含んだ水があふれている状態にあり、その汚染水が漏れて出し、海にまで達しているという懸念を改めて引き起こしました。

ストロンチウム90は人体に取り込まれると骨に蓄積され、体内で放射性物質を放出し、ガンを引き起こす原因を作ります。

原子力規制委員会は原子炉の再開を目指す電力会社からの申請を、7月8日から受け付けると公表しました。
7社の電力会社が、国内の13基の原子炉の再稼働をめざし、申請を行う事を表明しました。

原子力規制委員会の田中俊一委員長は19日、新たな安全基準により、日本は新たな段階に入ったと宣言しました。
新たな安全基準は、日本をして原子力発電における世界最高水準の安全対策が実施される国にするだろうと語りました。

原子力規制委員会の関係者は、原子炉の再稼働を許可するための審査には数か月を要するだろうと語りました。
地方のメディアは6カ月程度の審査期間が必要になるだろうと予測しています。

活断層
これとは別に原子力規制委員会は、日本国内の6か所の原子力発電所の下にある、活断層の存在に関する調査を指揮してきました。
その調査の結果を受け、原子力規制委員会は敦賀原発2号機の直下に存在しているのは活断層であると結論しました。
活断層が直下に存在することが確認されれば、その原子炉は廃炉にせざるを得ません。

新しい安全基準の実施が、福島第一原発の事故以降続いている国民の原子力発電に対する懸念を鎮静化させることに、効果を発揮するかどうかはまだ明らかではありません。

朝日新聞社が福島県を除く1,781人を対象に、6月の8日と9日の両日に渡り行った世論調査によれば、再稼働を認めると回答したのが28%であったのに対し、58%が再稼働は認められないと回答しました。

19日に開催された原子力規制委員会の会議は一般公開されましたが、傍聴席から上がった『市民の意見を聴け!』『すべての再稼働反対!』などの叫び声により、数回の中断を余儀なくされました。

それでも尚、電力業界、原子力発電を支持する日本の産業界、そして安倍首相率いる自民党は一基でも多く原子炉を再稼働させようと動いています。
3.11の大災害以前、日本は必要とする電力の3分の1を原子力発電によって賄っていました。
原子力発電を支持する関係者などは、電力不足と発電用燃料費の高騰が日本経済に損害を与えていると主張しています。

汚染水2012-03
福島第一原発の目下の問題は、1分間につき約300リットルという量の地下水が、破壊された原子炉建屋の基礎部分に流れ込むことによって生じています。
流れ込んだ地下水は、汚染水の格納用タンクに貯蔵される以前に、この場所で高濃度に汚染されてしまうのです。

今回新たに地下水の中からストロンチウムが検出された原因については、汚染水貯蔵タンクからの汚染水の漏出、あるいは原子炉建屋からの汚染水漏れが疑われます。
この事態に東京電力は、付近の堤防の補強工事を行い、汚染された地下水が海に到着しないよう別の対策も講じると19日に公表しました。

「福島第一原発の事故のことが、未だに多くの国民の念頭から去らない段階にありながら、日本政府が慎重に値踏みをしながら、原子力発電の再稼働を行なおうとしていることに留意する必要があります。」
九州大学の核安全エンジニアリングを専門とする工藤一彦教授がこう指摘しました。
「一般国民は、政府のそうしたやり方をする以上、原子力発電の安全性については懐疑的なままでいるしかありません。」

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昨年政権の座についた安倍首相は、原子力発電の支持者です。
原子力発電所を次々に再稼働させることは、日本のエネルギー政策の逆転を意味します。

政権の座を追われた前政権は、2040年までに原子力発電を段階的に廃止していくことを公約していました。

http://www.nytimes.com/2013/06/20/world/asia/japan-nuclear-safety-guidelines.html
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この記事を翻訳するためいろいろと調べているうちに、ニューズウィークに掲載された池田信夫氏の『原子力規制委員会の暴走』という記事( http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2013/02/post-627.php )を読みました。
池田氏はその記事の結論部分で、『エネルギー問題は社会全体のインフラであり、第一義的には経済問題である』と堂々と書いています。

この辺りがこれまで私がさんざん翻訳してきた、アメリカ、英国、ドイツなどの一流メディアが『信じられない!』とする、日本人の原発問題認識ではないでしょうか?

国の政策である以上、第一義に勝る大前提として『国民の生命、健康、そして日常生活を脅かさない』という事があるはずです。
どのような事業であっても、国民を脅かすことは許されない。
だからこそ今、欧米では『原子力発電の安全対策には万全を期さなければならない、しかしそのためには法外なコストがかかる』 → 『廃止し、もっと安全で低コストの発電手段に切り替えるべき時に来ている』という世論がメインストリーム、本流になりつつあるのです。

池田氏のような考え方こそが、福島第一原発の事故原因を作ったはずです。
経済効率こそが何ものにも優先される、現政権と同じ考え方であり、それでは被災者は救われないし、日本のエネルギー生産には、他の先進国には無い危険が常について回ることになります。

さらにはは『第一義的には経済問題』であると語っていますが、この類の論評が皆そうであるように、原子力発電を行うことによって生み続けられる核廃棄物の処理コスト、そして今、国民一人一人の上に重くのしかかろうとしている福島第一原発の事故収束・廃炉費用などにはには全く触れていません。
核廃棄物の処理などは、どんなに金を積んでも引き受け手がいない状況であることを逆手に取り、費用を『ゼロ』とみなしています。
このコストこそは天文学的数字になるはずのものであり、原子力発電が『経済的収支においても、最早成り立たない』ことを証明しているのです。
六ケ所村の再処理施設を持ち出すかもしれませんが、1993年から約2兆1,900億円の費用をかけて着工以来、未だ完成していません。

原子力発電を続ける限り、積算不能の核廃棄物処理コストはどんどん積み上がっていくのです。

私たちの選択は違う、その声を挙げましょう。
なぜ社会正義の実現を求める声は、潰されなければならないのでしょうか?
悩みましょう、そして行動しましょう。





 

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