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【 度重なる失態、発生が続くトラブル、深まる一方の福島第一原発の実態に対する懸念 】《後篇》[NYT]

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所要時間 約 9分

メルトダウンした核燃料の取り出し、実際には状況不明で、計画すら立てられない
ロボット工学の進歩も追いつかない程複雑な、福島第一原発の事故現場
チェルノブイリで実施された『石棺』を行っても、福島第一原発の汚染拡大は防げない
日本の原子力産業界の印象の悪化、そればかりを恐れる日本の原子力行政

マーティン・ファクラー / ニューヨークタイムズ 9月3日

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茂木氏が大臣を務める経済産業省は、福島第一原発の事故収束・廃炉作業を所管しています。
冷却剤を用い、1~4号機の原子炉建屋の地下を凍結させて防護壁を作り、地下水の流れ込みを防ぐ対策も同省が担当することになります。

しかしこの凍土対策にも批判の声があがっています。
ひとつは広大な地面を凍結させ続けるためには莫大な電力を消費しますが、福島第一原発の施設内には間に合わせの送電システムしか存在せず、これまでもたびたび停電などのトラブルを引き起こしてきました。
もう一点はこの凍土対策は、もともとこれ程の規模で行う事を想定していない技術であり、しかも一時的に用いられる手法だという事です。
その手法を事故収束・廃炉作業に、これから数十年の月日を必要とする福島第一原発の現場に使っても大丈夫なのかどうか、その点の検証はなされていません。

しかし、業界の専門家はこの凍土策は大規模な建設事業で、軟弱な地盤を安定される際、用いられることが多い技術だと主張します。
アメリカではボストンのビッグディッグ・ハイウェイ・プロジェクトの際、実際にこの技術が用いられました。

原子力技術の専門家は、破壊された原子炉の炉心から溶け落ちた核燃料を取り出す、日本政府の長期にわたる計画についても、疑問を呈しています。
この作業が成功すれば、現在起きている汚染の大きな原因のひとつを取り除くことが可能です。

FR24 破壊された福島第一原発
そもそも爆発とメルトダウンが起きた現場から、溶け落ちた核燃料だけを取り出すことが技術的に可能なのかどうか、その点を疑問視している専門家もいます。

原子炉容器には損傷が無かったスリーマイル島の事故の時ですら、リモコン操作で核燃料の核燃料を取り出す作業は、技術的に非常に複雑で気骨の折れる作業だったのです。
その当時と比べれば、ロボット技術は大きな進歩を遂げたかもしれませんが、福島第一原発の事故現場はその発展を凌ぐほどに複雑なものなのです。

スリーマイル島の事故では溶け落ちた核燃料は、ろうそくから溶け落ちたロウのような状態で原子炉容器の底に溜まっていました。
しかし今回は配管が破裂するなどして、溶けだした核燃料は格納容器の底を突き破り、建物の下の地中にまで到達している可能性がある、複数の専門家がそのように警告しています。

一方で現在福島県沿岸における放射性物質の脅威は、2011年3月の事故発生当時と比較すれば遥かに少ないものでしか無い、現在の危機についてそれ程重大なものではないとの見解を明らかにする科学者もいます。

汚染水流出
「現在も汚染水の漏出は続いていますが、その規模は事故発生当時と比較すればそれ程大規模なものではありません。」
福島第一原発の事故発生当初から海洋汚染の問題に取り組んできた、アメリカのウッズホール海洋科学財団のケン.O.ビュッセラー博士がこう語りました。
「ただしその影響は、きわめて長期間に及ぶでしょう。」

今回の汚染水問題で最大のダメージを被ったのは日本政府だったかもしれません。
なぜなら元来政府発表に対する日本国民の信頼は薄かった上、福島第一原発の事故により原子力発電の安全性に関する疑惑も浮上しており、そこへ持ってきて今回の汚染水騒ぎは火に油を注ぐ結果となってしまいました。

こうした観点に立てば、福島第一原発で行われてきた作業は、日本の原子力ムラをそのまま温存するために、日本国民に対し、以下の事を信じ込ませようとしました。

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すなわち、
現在のやり方で福島第一原発の事故収束・廃炉を前進させることは可能である
そして現在の体制で、避難・移住を余儀なくされた被災者に対し充分な補償を行うことも可能である
したがって、福島第一原発以外の原子力発電所を廃炉にする必要などは無い

「これこそまさに責任を回避するための巧妙な戦術です。」
法政大学で社会科学を専攻し、2,000名の会員からなる日本学術会議において、復興のための検証作業のリーダーを務める船橋晴俊教授がこう語りました。
「現在生きている人々は、福島第一原発の周辺には一生住むことはできない、そのことを認めてしまったら、ありとあらゆる種類の質問、疑問が殺到することになってしまいます。」

船橋教授や他の専門家などは、他の選択肢、すなわち旧ソビエト連邦がチェルノブイリにおいて採用したコンクリートで原子力発電全体を覆い密閉してしまい、周辺地区を少なくとも4半世紀の間、立ち入り禁止とする方策なども検討する必要があると指摘しています。

日本の当局者は、大量の地下水が原子炉建屋の下に流れ込んでいる状況を考えれば、原子炉をコンクリートで覆ってしまうだけでは、汚染の拡大を防ぐことはできないと語っています。
さらには福島県内の広大な面積の土地を居住、使用ともに不可能にしてしまう事は、狭い国土に多数の人間が暮らす日本においては採用しがたい選択だと語っています。

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そして次の点についても懸念を持っているのです。
ソ連が採用した石棺方式を福島で採用すれば、これまでの事故収束・廃炉作業が失敗に終わったことを公式に認めることになり、福島第一原発の事故で原子力発電に対し慎重になっている国民に対し、日本の原子力産業に対する信頼を決定的に失わせ、敵意すら抱かせることになる、と。

「福島第一原発で石棺方式を実施してしまったら、もう誰も他の原子力発電所が稼働している様子など見たく無い、そう考えるようになってしまうでしょう。」
日本政府の原子力規制委員会に関する諮問機関である、原子力委員会委員長の近藤駿介氏がこう語りました。

福島第一原発の状況は一層悪くなっているのではないか?
その事に対する懸念は、避難を強いられた楢葉町の旧住民の人々にとっては隠しようのない事実です。
楢葉町の除染作業は他の市町村よりも進んでおり、2014年度内には完了する予定になっています。
しかし楢葉町当局が7,600人の旧町民に聞き取り調査を行ったところ、福島第一原発が現在のような不安定な状態が続いていることを理由に、期間を拒否する住民がほとんどでした。

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「福島第一原発では、3日おきに新たな問題が発生しているように感じられます。」
楢葉町町長の松本幸英氏がこう語りました
楢葉町役場は現在、半径20kmの立ち入り禁止区域のすぐ外側にある、いわき市の大学の会館内に仮住まいしています。
「こうした状態が続けば続くほど、東京電力と日本政府に対し、この町の人々の心はどんどん離れていく一方なのです。」

〈 完 〉

http://www.nytimes.com/2013/09/04/world/asia/errors-cast-doubt-on-japans-cleanup-of-nuclear-accident-site.html?pagewanted=1
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「福島の状況は完全にコントロールされている」
あの『ウソ』を、世界の人々はどう受け止めたでしょうか?

「板子一枚下は地獄」、本来は海洋航海の危険なことを指した言葉です。
今回ご紹介したこの記事をお読みいただければ、福島第一原発の実際の状況はまさにそれだということが解ります。

福島第一原発の現場では、破壊されたそれぞれの原子炉をマスキングするような建造物が出来ていることが、ニューヨークタイムズのこの画像から解ります。
ちなみに図の中の赤い線は『凍土対策』を実施するライン、黒い線は海洋漏出を防ぐための防護壁を設けるラインです。

NYT 福島全体図
『壁一枚向こうは地獄』、それが福島第一原発の現実なのではないでしょうか。

その現実を作り出した日本の原子力ムラは、世界の世論、そして市民感情をはっきり敵に回したのです。
それがこの2年半の現実ではないでしょうか。






 

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