【 終わるはずの無い原子力災害、フクシマ、そして日本 】《前篇》[シュピーゲル]
「危機が発生したその都度」、つまずき続けてきた東京電力
これまでの考え方を、根底から変えなければならない
膨大な量の高濃度汚染水、今はただ貯め込む以外何もできない東京電力
マルコ・エヴァーズ / デア・シュピーゲル(ドイツ) 9月10日
日本は今、原子力発電所事故が進行している福島第一原発で次から次へとトラブルが発生する状況の中、次の段階に進むための活路が見いだせずにいます。
東京電力がアドバイザーとして迎え入れたアメリカ原子力規制委員会の元委員であるデール・クライン氏は、外国の専門家を現場に投入することによる解決を提案していますが、それも早急に実現しそうにはありません。
今週福島第一原発の事故現場に、それぞれ責任的立場の約100名のアメリカの原子力発電関係の政府職員が見学に訪れています。彼らは空路来日し、バスで福島第一原発の現場に入りました。
彼らは防護服に身を固め、2011年3月、数百年に一度の規模の地震に見舞われ、数百年に一度の津波に襲われて破壊され、3基の原子炉がメルトダウンを起こした福島第一原発の事故現場に、実際に入ることになっています。
「私は断言できます。この視察旅行から戻ったら、彼ら全員が自分たちが管理監督している原子力発電所の安全対策を、これまでの倍以上のものにしようとするに違いありません。」
デール・クライン氏がこう語りました。
彼自身、福島第一原発の現場の視察の後、こう語りました。
「これまでの考え方を、根底から変えなければならない。」
2009年までアメリカ原子力規制委員会の委員長を務めたデール・クライン氏は、現在東京電力の要請により同社の内部改革委員会に籍を置き、東京電力に対し助言を行う立場にあります。
かつて福島第一原発の経営と運営を行ってきた東京電力は今、その事故収束・廃炉作業を進めなければならない立場に置かれています。
東京電力はこれまで日本国内の工業技術の専門家の目の前で、否、国民全員の目の前で、福島第一原発の事故後の現場の状況をしっかりと掌握し、解決に向け秩序立てて事故収束作業を行う、それにはるかに及ばない能力しか持っていない企業であることをはっきりと証明して見せました。
クライン氏は本来なら非常に礼儀正しい人間ですが、彼を雇った東京電力という会社についてどう考えているか、公の場で尋ねられたことがありました。
「自分たちが何をしているのか、まるで理解していない。」
彼は東京電力の広瀬尚美社長に面と向かって、こう言い放ちました。
「そして、これからどうするかというプランすら無い。」
公の場で非難を受けた広瀬社長は、日本的習慣に従い深々と頭を下げ、こう語りました。
「ご期待に沿えなかったことを、心からお詫び申し上げます。」
クライン氏によれば、東京電力は「危機が発生したその都度」、つまずき続けてきました。
福島第一原発の事故現場ではこれまで、収束に向けたどんな進展もありませんでした。
そして対応にあたって来た日本の担当者たちは、国外からの援助を求めなければならないところまで追い込まれていることを、認めざるを得なくなったのです。
クライン氏は日本政府がヨーロッパ、あるいはアメリカから専門家を招き、福島第一原発の解決を進めようと計画していた形跡があると語りました。
そして合衆国エネルギー省民間核廃棄物部門の元高官であったレイク・バレット氏を、事故収束・廃炉作業と汚染水問題処理のためのアドバイザーとして招へいしたとの声明を発しました。
バレット氏は1979年に部分的メルトダウンを起こしたスリーマイル島事故の収束作業にたずさわった経験を持っています。
▽薄氷を踏む思い・首の皮一枚でつながっている、福島第一原発の『冷温停止状態』
日本はこれまで福島第一原発の事故収束・廃炉作業にはいかなる助力も必要としていない、特に海外からの助力は、という立場をとってきました。
するべきことは東京電力がちゃんとやる、という考えです。
実際には東京電力という会社は電力を作って売る会社であり、解決が困難な今回のような事故が起きた場合の処理能力については、たとえばドイツの電力会社と比較しても、特段経験に富んでいるわけでもなく、卓越した対応ができる訳でも無いというのが事実だったのです。
当然の帰結として、事故後2年半が過ぎた福島第一原発の現場は首の皮一枚でつながっている、つまりはこれ以上の巨大事故にならないところに、何とか踏みとどまっている状況にあります。
今回のような事態が起きた場合どう対応しなければならないか、そのために考え抜かれた計画を着々と実行している、東京電力の対応はとてもそんなものではなく、次々と発生する不測の事態に追いまくられ、その場しのぎの対応を延々と繰り返している状況なのです。
この数カ月間を振り返った際、最も『あり得ない』トラブルは、ネズミが配電設備の中に入り込んだ際に発生した、大規模な停電事故でしょう。
その影響はたちまち重大な事態につながりかねない問題を引き起こしました。
4つの使用済み核燃料プールに設備されていた、間に合わせの冷却装置に電気が送れない状態に陥ってしまったのです。
予期せぬ核反応などの事態に陥らないよう絶対の安全を確保しなければならない、8,800本の使用済み核燃料を保管しているプール内の水温が上昇を続ける結果につながりました。
原因の究明が行われましたが、現場に残された焼け焦げたネズミの死体がすべてを物語っていました。
東京電力は福島第一原発の破壊された原子炉周辺から、毎日400トンに上る高濃度の汚染水の汲み上げを行っています。この汚染水は溶け落ちた核燃料の冷却水、そして現場周辺に流れ込む地下水がメルトダウンした核燃料等に接触することにより作りだされます。
こうしてできた汚染水には高濃度の放射性セシウム、トリチウム、ストロンチウムなどが含まれ、とても海洋に排出できるような状態にはありません。
代わりに東京電力は幅12メートル、高さ11メートルの鋼鉄製のタンクを次々と急造、この中に汚染水を貯めこむ作業を続けています。
これらのタンクは鋳造などでは無く、リベットで鉄板をつなぎ合わせた構造になっています。
これらのタンクが急造する勢いは、衛星写真を見ると簡単に確認できるほどのものです。
2011年半ばには数十基だったタンクが、2012年半ばにはすでに数百基の規模に膨らんでいました。
現在ではさらに増えて1,000基を超え、2015年には2,000基を超えるタンクが作られる予定となっています。
まさに東京電力は多量の汚染水の中に、溺れこもうとしているのです。
〈 後篇に続く 〉
http://www.spiegel.de/fotostrecke/photo-gallery-fukushima-s-growing-stockpile-of-contaminated-water-fotostrecke-101236-13.html
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ほぼ毎日、ポッドキャストで視聴しているアメリカの報道番組『デモクラシーNOW』では、キャスターのエイミー・グッドマンさんがよく、ドイツの雑誌であるデア・シュピーゲルの記事を引用しています。
信頼性が高いのはもちろん、それだけ市民目線の報道をしているという事なのだと思います。
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【 人生を取り返しがつかぬまで、壊された人々 】《2》
アメリカNBCニュース 10月2日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)
仮設住宅で亡くなり、故郷の墓の中に入った女性のため、供え物をする親戚の人々。(写真上)
破壊された福島第一原発の南にあるいわき市の沖合で、漁船に乗って海に網を入れる漁師たち。
採れた最中の中から放射性物質の検査に使う魚を選び出し、残りはすべて海に帰されます。
福島第一原発の周辺で行われる漁はすべて放射性物質の検査のためのもので、販売目的の漁は政府によって禁止されています。(写真下・以下同じ)
福島第一原発の周辺で、雑草や和製化して伸び放題になった畑の作物などの刈り払いをする、東京電力が雇用した作業員の男性。
楢葉町のテニスコートに放置された黒いビニール袋の中身は、除染によって集められた放射能に汚染された土、木の葉、ごみの類です。
日本政府が進めてきた除染作業は非常に手間がかかり、しかもきわめて高額な費用と時間がかかることが解りました。
しかも除染で集められた汚染物質は、持ち込もうとする先々で、住民などの強い反対に直面しています。
こうした経緯から最終的な処分方法が決まるまで、除染によってできた汚染物質の袋は被災地の道路や空き地などに『仮置き』されることになったのです。
浪江町の被災地を訪れ、津波の犠牲になった消防隊員に手を合わせる消防士。
富岡町付近で、道路封鎖を行っている警備員。
短時間の帰宅を許され、自宅に戻る双葉町の女性。
頭上には『原子力発電で明るい未来』の看板。
何十年も前、完成した福島第一原発の威容はこの町の誇りでした。
今この町の人々は、福島第一原発がおこした事故のために、散り散りになってしまいました。
いわき市の海岸で、一般の人々には禁止されている釣りをする男性。
福島県内の多くの海岸が、事故発生から2年半が過ぎた今も、釣りなどは禁止されたままになっています。
ワシントンポストの下記のサイトにも若干異なる内容の写真集が掲載されています。
http://www.washingtonpost.com/world/broken-lives-of-fukushima/2013/10/03/c679c044-2c31-11e3-b139-029811dbb57f_gallery.html#photo=14
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