ホーム » エッセイ » 新型コロナウイルス:ワクチン開発、最初に成功するのは誰なのか?《前編》
感染症の中で完全に根絶されたのは世界でたった1種類、確認から根絶まで200年
通常、ワクチン開発の成功率は約10%だけ
ロシア・中国の『ワクチン開発成功』の拙速・WHOのフェーズ3をクリアせず
ドミニク・ベイリー / BBCニュース 2020年9月11日
科学者が新型コロナウイルス・ワクチンの製造に成功しても、十分な成果は期待できません。
研究機関や製薬会社は、新型コロナウイルスに効果のあるワクチンの開発、試験、製造にかかる時間について、ルールブックを書き直しています。
ワクチンの開発成功は地球的課題であるとの立場から、前例のないステップがとられています。
しかし最貧国などの犠牲の上に最も裕福な国々だけが恩恵を受ける結果になるという懸念があります。
では、誰が最初にそれを手に入れ、どれだけの開発費用が必要なのでしょうか?
そして世界的な危機の中、誰も取り残されないようにするにはどうすればよいでしょうか?
感染症と戦うためのワクチンは通常、開発、検査、および製品供給が行われるまで何年もかかります。
それでも尚、開発されたワクチンの効果の保証はありません。
人類史上今日まで、感染症の中で完全に根絶されたのはたった1種類です。
天然痘だけです。
そして確認から根絶まで200年の時間がかかりました。
それ以外の感染症 - ポリオ、破傷風、はしか、おたふく風邪、結核など - についても盛んにワクチン接種が行われていますが、ワクチンを受けた人も受けなかった人も、結局は生存率が違ったわけではありませんでした。
▽ 新型コロナウイルス・ワクチンの開発はいつごろ期待できますか?
新型コロナウイルスCovid-19によって引き起こされる呼吸器疾患について、どのワクチンが効果があるかを調べるために、すでに何千人もの人々が関る試験が進行中です。
通常のワクチン開発なら調査から製品供給まで5~10年かかるプロセスが、今回に限り数か月に短縮され程ます。
その間製造部門の業務は拡大し、株主やメーカーは効果的なワクチンを製造する準備が整うまで何千億円のリスクを負うことになります。
ロシア政府は開発中のスプートニク5型ワクチンの試験で臨床試験の患者に免疫反応の兆候が見られ、10月にはワクチンの大量接種が開始できると主張しています。
中国はワクチン開発に成功し、いつでも自国の軍人向けに接種できる体制が整ったと主張しています。
しかし、両方ともワクチン生産までのスピードが拙速に過ぎるとの懸念が高まっています。
どちらのワクチンも、世界保健機関(WHO)が規定しているフェーズ3の臨床試験をクリアしたワクチンのリストに含まれていません。
フェーズ3は多数の人間に接種して安全性と有効性を確認する段階です。
成功が有力視されているワクチンの一部は、年末までに新型コロナウイルス・ワクチンとしての承認を得ることを望んでいますが、WHOは、2021年の半ばを過ぎるまで、新型コロナウイルスCOVID-19に有効なワクチン接種が可能になるとは考えていません。
オックスフォード大学で開発中のワクチンの権利を有する英国の製薬会社アストラゼネカは、グローバルな製造能力を増強しており、成功すれば、英国内だけで1億回分、場合によっては世界で20億回分を供給することに合意しています。
ファイザーとバイオNテックは開発プログラムに1,000億円以上を投資してmRNAワクチンを開発したと語り、今年の10月には何らかの形で規制当局の承認申請を行う準備ができるだろうと期待しています。
承認されれば、2020年末までに最大1億回、最終的には2021年末までに13億回以上の摂取量を製造することになります。
現在臨床試験を進めている製薬会社の数は約20社に上ります。
しかしそのすべてが成功するわけではありません - 通常、ワクチン試験の成功率は約10%だけだとされています。
世界的な視点からは、新しい協力関係の構築と共通の目的により、新型コロナウイルスCOVID-19のワクチン開発の成功率が上がることが期待されています。
しかし、これらのワクチン開発の幾つかが成功したとしても、差し迫った不足は明らかです。
▽ ワクチンナショナリズムの防止
各国政府は開発に成功する可能性のあるワクチン確保に動いており、公式に認証または承認されていない段階で様々な候補者との間で何百万回分もの供給契約を結んでいます。
たとえば英国政府は、成功するかどうかわからない6種類の開発途上の新型コロナウイルス・ワクチンの供給契約に署名しましたが、金額は非公開にされています。
米国政府は開発に成功したワクチンをいち早く手に入れるため、来年1月までに3億回のワクチン投与を可能にするための投資計画を作り上げました。
米国疾病対策予防センター(CDC)は、早ければ11月1日にもワクチン接種を開始できるよう、各州政府に勧告すら行いました。
しかし世界中の国々が公平にワクチンを手に入れられるわけではありません。
国境なき医師団をはじめとする幾つかの組織はしばしばワクチン接種の最前線に立っていますが、製薬会社がこれから生産するワクチンが先進富裕国によって独占されてしまうと、富裕国による『ワクチン・ナショナリズムの危険な傾向』が生じると語っています。
これにより、貧困国のとりわけ弱い立場にいる人々へのワクチン提供が困難になります。
過去の例としては、ワクチン価格の高騰により多くの貧困国が髄膜炎などの疾患に対し、子供たちの命を守ることが困難な状況に陥ってしまいました。
WHOの事務局長補佐を務め医薬品と健康製品供給を担当するマリエンゲラ・シメオ博士は、ワクチン・ナショナリズムが広がないよう監視する必要があると語っています。。
「課題は、公平な供給を担保することです。より多くの対価を支払うことができる国だけでなく、すべての国が供給を受ける体制を整備しなければなりません。」
▽ 世界規模のワクチン・タスクフォースは存在するか?
WHOはGEPIの名で知られる流行性疾患対応グループと各国政府および組織のワクチン共同開発事業GAVIと連携し、競争条件を平準化しようとしています。
これまで少なくとも80カ国の富裕な国々と経済圏が世界的なワクチン計画COVAXに賛同・署名しました。
ただしWHOからの脱退を表明している米国は含まれません。
COVAXに技術資源をプールすることにより、参加各国は、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの92の貧困国にもCovid-19ワクチンの「迅速、公正、公平な供給」を保証することを望んでいます。
COVAXは、さまざまなワクチンの研究開発事業への資金提供を行い、必要と判断されればメーカーの生産拡大をも支援します。
COVAXには広汎なワクチン開発試験プログラムが登録され、2021年末までに20億回分の安全で効果的なワクチンが提供できるよう、少なくとも1つは成功するよう希望が託されています。
「新型コロナウイルスCOVID-19のワクチンについては、状況を変えたいと思っています。」
GAVIのCEOであるセス・バークレイ博士ガこう語りました。
「世界で最も裕福な国民だけが守られるようなことになれば、世界全体で猛威を振るうパンデミックにより国際貿易、国際的商取引、さらには社会全体が大打撃を受け続けることになるでしょうでしょう。」
後編に続く
https://www.bbc.com/news/health-54027269
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