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東京電力の株主総会、そこで見たもの、見えたもの

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所要時間 約 13分

【 声を上げ始めた、日本の個人株主たち 】
「株の持ち合いによって、人間の声を封殺する日本の大企業」

ヒロコ・タブチ / ニューヨークタイムズ 6月27日


写真 : 東京電力の株主総会、どう見ても大企業の経営者として相応しくない東京電力の役員たちに対し、怒りの声を上げる人々。

東京 — 木村ゆいさんは苦しんでいる投資家である、などと言う表現は控えめに過ぎるかもしれません。彼女は福島第一原発の運営会社であり、その株価が10分の1にまで値下がりした東京電力の個人株主の一人です。

彼女は津波によって引き起こされた福島第一原発の巨大災害により、少なくとも10万人を超える人々が、住んでいた場所から追い立てられてしまったことの責任に、東京電力という会社がきちんと向き合うべきだと考えています。
6月27日水曜日に開催された東京電力の株主総会において、彼女は提出された4つの議案の共同提案者の一人に連なりました。
議案の一つは、東京電力のすべての原子炉を廃炉にする、というものです。

「東京電力という会社は、津波が巨大な天災であったことばかりを言いたて、その後ろに身を隠そうとしています。私たちはその態度を正さなければなりません。」
彼女がこう語りました。

これまでの株主総会では、参加者は会社側の議事進行に協力するおとなしい集団に過ぎませんでした。しかし最近の株主総会では、会社の反社会的な経営方針や企業の不祥事について、きちんと正そうする個人投資家が増えて続けており、木村さんもそうした中の一人です。
この夏は、経営者側の方針に疑問を呈する議案や経営陣に対する糾弾を目的とした議案などが提出され、動揺が広がる様が印象的な株主総会となりました。

インサイダー取引の疑いが浮上している、世界有数の投資機関である野村ホールディングスの株主総会では、恥ずべき振る舞いを揶揄するため、社名を『Vegetable Holdings - ベジタブル・ホールディングス』に変更する議案が株主側から提出されました。
この議案は投票により、否決されました。
(英語のVegetalには「理性が無く、ひたすら吸収・栄養・成長のみを行う」という意味があります – 訳者注)

日本では個人投資家は、企業などの機関投資家と比較すると、ほとんど権限は無く、多くは信託銀行などが募集する投資企画に参加した人々です。日本の企業は系列会社、取引先などで『株の持ち合い』を行って株主の構成を安定させ、市場が経営に介入しないようにしています。

コーポレート・ガバナンスと企業の経営者教育を専門とする、NPO[日本経営責任教育研究所]の専務理事ニコラス・べネス氏はこう語りました。
「日本の株主総会において『株主の春(アラブの春のもじり)』が実現され、株主総会が民主的に運営されるようになるまでは、まだまだ長い時間がかかるでしょう。」


これまで低い配当と未熟なコーポレート・ガバナンスを我慢し続けてきたが部主の中にあっては、しかし個人株主については、どのような行動であっても、著しい変化が起きている、と言わなければなりません。
主要銘柄の平均株価の指標である日経225を見ると、その価格は最高値を記録した1989年末と比較して、4分の1から5分の1であることが解ります。
そして企業は株主に還元する代わりに、現金による内部留保の金額を積み上げているのです。

野村証券によれば、東京証券取引所に登録されている企業の約半分が、外部からの非常勤役員を加えていません。

日本航空の投資家向け広報担当責任者だった木野かずおさんは、日本の企業が個人投資家のほとんどは、企業の業績に関心を持つことは無かった、と語りました。

その代り企業が株主向けに提供する数々の特典目当てに、株主となる傾向がありました。
日本航空の場合は、特別割引航空券です。
しかし日本航空の株主たちは、同社が2010年前半に事実上倒産した際、そうした特権も失うことになりました。
「もちろん、会社が破綻してしまったことは、投資家にとって大きな衝撃だったに違いありません。」
木野さんはこう語りました。
「しかしそうした事件が起きない限り、投資家が企業の収益の詳細について、関心を持つことはあまりありません。」

2000年代の中ごろ、日本の企業に投資していた海外の投資家が、その業績と比較して日本企業の配当が低すぎることを大きな問題にし始め、各企業の経営陣の変更に乗り出そうとした際、日本国内では株主というものが、どう行動すべきかを学ぶことになりました。

日本企業はこうした動きに対し、新株予約権などを使って買収者の持ち株比率を下げるポイズン・ピル(毒薬条項)を用いて対抗しました。すなわち新規に株式を発行し、一株当たりの議決権を減少させ、さらには裁判に持ち込みました。こうした事態に結局海外の投資機関は日本企業の経営陣に一撃を加えたものの、最終的には撤退を余儀なくされました。
海外投資機関の一つ、ニューヨークに本拠を置くスティール・パートナーズは、数年間に渡りサッポロ・ホールディングスや江崎グリコと戦ってきたが、昨年、日本における投資を清算した、と明らかにしました。


しかしここに到って企業による不祥事が次々と明らかになり、改めてコーポレート・ガバナンスに関わる問題にスポットライトが当たるようになりました。そして今度は個人投資家が、さらに厳しい態度を見せ始めたのです。

その顕著な例は光学器・カメラメーカーのオリンパスの事件です。
17億ドル(約136億円)に上る損失隠しが明らかにされ、株価は一気に80%の価値を失ってしまいました。

6月に開催された株主総会では、経営陣は会場を覆わんばかりの野次を浴びせられました。発言者の一人はオリンパスの財政状態について、同社が製造した内視鏡を使った、精密な調査を行うよう要求する発言を行いました。
オリンパスの経営陣は現在、株主が起こした刑事訴訟により、法的に追及される立場に追い込まれています。

野村証券のアナリストであり、コーポレート・ガバナンスが専門の西山けんご氏は、『ローリスク・ローリターン』の株式を好む傾向がある日本の投資市場にあっては、この手のスキャンダルは、企業にとってとりわけダメージが大きい、と語りました。
「投資家が懸念を深めるのは、無理もない話です。」

ここ数カ月の株主総会で焦点となったのは、新たな経営者の指名問題でした。
西山氏が1,000名の個人投資家に対して行った調査では、その14.5%が会社側が選出した社長や役員人事案に、反対するつもりであることを明らかにしました。


西山氏自身の会社、野村証券グループも最高経営責任者・渡部 賢一氏と取締役会長・古賀 信行氏の再任について、難問に突き当たることになりました。
機関投資家向け議決権行使助言サービス最大手のInstitutional Shareholder Services(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービス=ISS)社は、インサイダー取引の問題、株価低迷の問題についてこの二人の責任を追及し、この人事案について反対投票をするよう株主に勧めました。
しかしいずれの株主総会においても、日本生命、東京三菱UFJ銀行、日本トラスティ信託銀行などの大手機関投資家が現経営陣の支持にまわり、個人投資家の怒りは矛先を失うことになりました。

機関投資家は日本最大の商業銀行、みずほホールディングスの新任の経営責任者の経歴を明らかにするように求めた、ただそれだけの、個人株主の要求を却下することにも協力することになりました。
みずほホールディングスの経営側は、そのような情報開示は「不必要」と決めつけました。

「みずほホールディングスの経営者に、私たち個人投資家と誠実に向かい合おうという態度は感じられませんでした。」
今回の議案の共同提案者の一人、個人株主の中山やすしさんがこう語りました。

中山さんの指摘はおそらく正しいものです。
日本企業は伝統的に、個人株主が声を上げにくいように、できるだけ異議を唱えられないようにしてきました。
たとえば、同じ日にたくさんの企業が株主総会を開催したりすることなども、その一つです。
今年の日本企業の株主総会のヤマ場は、709社の株主総会が開催された6月27日水曜日でした。今年3月末時点でこの709社は、東京証券取引所に登録されている企業の42%にあたります。

しかし、一方で変化の兆しも現れています。
42%という数字は1995年ピーク時の96%と比較すれば、半分以下です。
一部の新興企業は個人株主が参加しやすいように、株主総会を週末の休日に開催しました。
発足したばかりのライフネット生命は、日曜日に株主総会を開催しましたが、同じ試みを行った会社は33社ありました。


「これまでの日本の株主総会は、参加者数をできるだけ少なくし、議事進行に異議をさしはさませないようにし、可能な限り短時間で終了させる、というのが基本だったのです。」
ライフネットの起用同設立者で、取締役副社長の岩瀬大輔氏がこう語りました。
「しかしそうした基準は崩れてきています。私たちにとっては、より多くの情報開示を行う事の方が、正しいことなのです。私たちのように小さな会社なら、すべてを明快に開示し、詳細な説明を行うことは、極めて容易なことです。」

そして、一部の機関投資家さえ、変わり始めています。
その資産価値は1兆7千億円とも言われる、日本で三番目の規模を持つ保険会社、第一生命はこの3月、4月以降に開催される株主総会において投票権を行使することに関するガイドラインを強化しました。
投資先の企業が充分な現金資産を保有しているにもかかわらず、相応の配当を行わなかったり、理由を明快にしないまま新株予約権などを使って買収者の持ち株比率を下げるポイズン・ピル(毒薬条項)の実行を主張した場合、異議を申し立てることにしたのです。
「一連の株主総会に参加してみて、より一層の透明性が必要だと感じていました。」
第一生命の広報担当の伊吹まさのり氏は、取材に対し、こう答えました。
金融問題を専門にする評論家は、第一生命自身、その株主から株式を所有している企業に対し、ふさわしい配当を受け取るよう、求められているのだ、と語りました。

しかし、構造的な変化にまでは、まだ至っていません。
東京電力の株主総会では、冒頭にご紹介した木村さんのような個人株主が、福島第一原発の事故の被害者の人々に生涯にわたる健康管理を約束し、保有する資産をさらに整理して、被害者への賠償に充てるよう、動議を提出しました。
それらの動議はひとつずつ、東京電力の大株主である三井住友銀行などの反対多数で、否決されていきました。

「ようこそ、東京電力へ。ところでそれ、放射能検出器械ですか?」
「いや、ウソ発見器ですよ。あなた方の話を聞く時の、必需品でしょ。」
 - この漫画はニューヨークタイムズの記事とは関係ありません -


世界にTEPCOの名を知らしめた東京電力の経営陣は、会場内から湧き上がる批判の声を無視し続けました。
「東京電力の役員は、耳栓をしているのかもしれません。」
木村さんの言葉です。

http://www.nytimes.com/2012/06/28/business/global/japanese-shareholders-starting-to-show-their-teeth.html?pagewanted=1&_r=1&partner=rss&emc=rss





 

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