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【 原発事故、その後の本当の災厄、そこに閉じ込められてしまった人々 】《前編》IND

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所要時間 約 12分

原発事故、その後にやってくる本当の悲劇を、世界は未だその目で確かめてはいない
「汚染されていない食糧を買うための助成金」一カ月たった150円
世界最悪の原発事故から28年、世界中から忘れ去れてしまった被災者たちを襲ったいくつもの苦難

記事 : トム・デイヴィス
写真 : アレクセイ・ファーマン
インデペンダント 2014年4月27日

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ウクライナ国旗の黄色と青が表現するのは、想像上の景色です。
ウクライナの田園地帯で地平線まで続く実り豊かな麦畑、そして青い空を象徴しています。
そして国境の向こうにチェルノブイリがある北の方に目を転じても、見た目には同じように豊かな田園地帯が広がり、人々はそこに本当に存在するものに容易には気づくことがありません。

しかし遥か彼方まで広がる黄色い平原は、人の手によって耕されたものではないのです。
そして地平線と空がつながる場所にある緑の針葉樹の林と打ち捨てられた境界標識パイロンが、人々を田園詩の世界から現実に引き戻すのです。
この針葉樹の林の向こうにあるのは放射性物質に汚染された避難区域なのです。

「私たちはジャガイモにしがみついている小さな虫と同じです。」
鋭い金属製のとげが無数に突きだす有刺鉄線で囲われたチェルノブイリの原発事故避難区域を間近に望む場所にある畑の前で、ヴィクトールがこう語りました。
「この小さな虫たちは何ものをも恐れることも無く、私たち人間の事も恐れてはいません。ひねりつぶそうとしても、虫たちはしぶとく生き残ります。私たちも同じことです。」

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チェルノブイリの事故により汚染された地区で暮らす他の人々同様、彼も『汚染されていない食品を購入するための補償金』を毎月受け取っています。
その金額は月に9ペンス(約150円)です。
「たったこれだけの金額でどうしろというのでしょうか?」
「一斤のパンすら買うことはできません。」

ウクライナでは旧大統領の強権政治に対する市民の反発により、首都キエフなどで銃弾と火炎びん、警棒と鉄パイプの応酬による大きな混乱が起きましたが、別の場所でも静かな暴力がウクライナの市民の背後に忍び寄り、数千人あるいは数万人の命が危険にさらされようとしています。

2014年4月末、世界最悪の原発事故が発生してから28回目の記念日がやってきました。
停滞を続けるウクライナ経済は、その咽喉元をロシアの両手につかまれています。
こうした事情から、チェルノブイリの事故により放射性物質に汚染されたベラルーシ国境近くの横に細長く伸びた場所に取り残されたままの人びとへの補償金は減らされ続けてきました。

2014年初頭ロシアはウクライナに対し、天然ガスの輸出価格を80%値上げすると一方的な通告を行いました。

ウクライナに対する打撃は連れ立つようにしてやってきました。
クリミア半島の併合に関わる騒乱が激化する中、2010年のギリシャ危機の際に行われたように、西側社会はウクライナに対しIMFからの融資と引き換えに各方面・各部門に渡る厳しい財政削減政策の実施を突きつけたのです。

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キエフにあるウクライナの臨時政府は、共産主義の崩壊がもはや開府不能であることが解って以来、公共サービスや福祉事業費、そして各種の給付金を大幅に削減していますが、窮状は相変わらずです。
EU社会とロシアという対照的な性格を持つ二つの社会に挟まれて暮らすウクライナ人は、すでに4人に1人が貧困層に分類されていますが、そこにさらに全面的な財政緊縮政策とエネルギー価格の暴騰という圧力がかかっています。
それでもこうした厳しい経済状況がもたらす様々な災厄の影響をもろに受けるという点において、チェルノブイリの被害者より厳しい状況に置かれている人々はいないと思われます。

「これは戦闘の無い戦争なのです。」
立ち入り禁止区域から歩いて2、3分の場所で暮らすマーシャがこう語りました。
非常線を張り巡らせたウクライナの放射能汚染・立ち入り禁止区域は国の中央北部に位置し、
オックスフォードシャー(約2,600平方キロ)程の大きさがあります。

ヴィクトール同様、マーシャも補償に関しては実質的に何も受けとっていません。
州から支給される彼女の年金はかろうじて収支の帳尻があってはいるものの、ウクライナ政府が行う財政緊縮策の最初の段階で、その年金も削減されることになっています。

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「私たちはみんな、いくつもの病気を抱えています。」
マーシャがこう語りました。
「その上、不眠症にも悩まされています。」
しかし彼女もまた他の多くの人々同様、あらゆる手立てを尽くし生活を支えようとしています。

彼女は汚染されていることを承知の上で、自分たちが食べる「キュウリ、ジャガイモ、その他作れるものなら何でも」栽培しています。
そして違法であることを承知の上でチェルノブイリを取り囲むようにして設置されたフェンスに穴を開け、森の奥深くまで入り込み、キノコやベリー類を採取して食用にしています。
食べきれない分はピクルスにして、キエフまで出かけて路上販売しています。
しかしそれもいつまで続けられるか解りません。

彼女は時折立ち入り禁止区域内で警察に逮捕されることがありますが、彼らが本当に関心を持っているのは逮捕の実績ではなく賄賂を要求することです。
他には立ち入り禁止区域内からくず鉄を集め、それを売り払う事で生計を立てている人々もいます。
いずれにしても実質的に崩壊してしまった経済と政治不在の社会の中で生きていくのは容易なことではありません。

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「食べるためには盗むしかありません。盗む能力が無ければ、四六時中腹を空かせていなければなりません。」
定期的に危険を冒して立ち入り禁止区域に入り込んでいる一人の男性がこう語りました。

★記事中1枚目の写真 : チェルノブイリの事故後、収束作業にかり出され放射線への被ばくが原因で死亡した夫の遺影を抱いて涙を流す女性。
2枚目の写真 : 事故当時チェルノブイリ近くで暮らしていた女性。当時のことを思い出すと涙が止まらなくなる。
3枚目の写真 : 立ち入り禁止区域に入り込み、くず鉄を集める男性。
4枚目の写真 : チェルノブイリの避難区域内にある第二次世界大戦当時の戦勝記念碑。この場所は第二次世界大戦以降、多くの悲劇を目撃してきた。ナチス・ドイツの侵攻、ユダヤ人への迫害、そしてチェルノブイリ。第二次世界大戦に参戦した一人の老兵士がこう語った。
「少なくともナチスドイツの侵攻はこの目で確かめる事が出来た。しかしチェルノブイリの放射線の恐ろしい点は、目で確かめようが無い事だ。」
5枚目の写真 : 有刺鉄線の隙間から立ち入り禁止区域に入ろうとする女性。

〈後編に続く〉

http://www.independent.co.uk/news/world/europe/ukraines-other-crisis-living-in-the-shadow-of-chernobyl--where-victims-receive-just-9p-a-month-and-are-left-to-fend-for-themselves-9293832.html
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原発事故後の各種統計データを持ち出して
「恐れた程の被害が出た訳ではない」
と語る『有識者』や政治家に対し、
「原発事故の被害者の問題は統計上の問題では無く、人道上の問題だ」
と指摘した記事がありましたが、ここに記されているのはまさにそうした事実です。

私個人の話しで恐縮ですが、定年を数年後に控えた今、60歳以降を私は第7の人生と定義し、その計画を練っています。
第一は幼少期、第二は少年期、第三が青春期、第四が成人して結婚するまでの青年期、第五が結婚して子育てにいそしんだ時期、第六が子どもたちが成人し多少の余裕もできた現在、そして第七が引退から死へと向かう人生のラストです。

個人の思いに関係なく、その人生を途中でギロチンのように断ち割ってしまったのが原発事故でした。
自宅や家庭、故郷など本来なら人生設計の基盤となるものを、無慈悲に叩き割ってしまったのです。

そういう意味では原発事故も戦争も、その本質は全く同じです。
だから私自身、この二つを憎み抜いているのかもしれません。

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【 チェルノブイリ、災厄に閉じ込められてしまった人々 】《1》

写真 : アレクセイ・ファーマン
ザ・インデペンダント 4月28日
(掲載されている写真をクリックして大きな画像をご覧ください)

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鉄条網をくぐって、チェルノブイリ事故の汚染地帯、立ち入り禁止区域に入る男性と飼い犬。
ウクライナの人々は立ち入り禁止区域内でくず鉄などを拾い集め、日々の収入の足しにしています。
パトロール中の国境警備警察に発見されれば、逮捕されるか見逃す代わりに賄賂を要求されます。(写真上)

立ち入り禁止区域のすぐそばの自宅の中にいる女性。壁にはヤヌコービッチ元大統領と対立するポロシェンコ現大統領の写真が貼られています。(写真下・以下同じ)
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チェルノブイリ原発事故の記念日、ウクライナの首都キエフで国旗を手にする男性。
ある人がこう語りました。
「かつてウクライナ人とロシア国民は手を携えてチェルノブイリの事故に立ち向かいました。新たに起きた争いに終止を打ち、協力してチェルノブイリの被災者の救済にあたることは出来ないのでしょうか?」
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この辺りでは人々が換金できるものや自生する食糧を求めてチェルノブイリ事故の汚染地帯、立ち入り禁止区域内をさまよい歩く事は日常的な光景です。
収穫した食用のキノコや木の実は自家用の他、闇で販売されます。
それでも放射線の見えない恐怖は、自生するこれらの植物や菌類を人間の手から守る役割をしています。
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悪名高いチェルノブイリの破壊された原子炉。
1986年人為ミスと欠陥のある原子炉設計の組合せはメルトダウン事故を引き起こし、多数の人々を危険と不幸のどん底へ突き落としました。
これ以上の放射能漏れを防ぐため、現在新たな石棺を作る工事が進められています。
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