星の金貨プロジェクト

星の金貨 東日本大震災や音楽、語学、ゴルフについて語るブログです。

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【 アメリカ全土に『日本叩き』の火をつけてまわるドナルド・トランプ 】《後篇》

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所要時間 約 8分

一般市民の雇用不安をかきたてるグローバリゼーション、トランプ氏独特の保護主義の格好の攻撃目標に
最終段階ではトランプ氏を支持しない、しかし日本政府の円安政策を問題視する姿勢は評価する

ジョナサン・ソブル、キース・ブラッドシャー / ニューヨークタイムズ 3月7日

トランプ01

ドナルド・トランプ氏は中国に加え、日本もまたアメリカ人の雇用機会を奪っていると攻撃の矛先を向け始めました。
スーパー・チューズデーに勝利した後、彼アメリカの建設機械メーカーであるキャタピラー社が円安誘導政策により不公正な競争を強いられ、日本のライバル会社であるコマツが不当な利益を得ていると名指しで批判しました。
彼は先に公約として掲げていた不法難民流入防止フェンスをメキシコ国境沿いに建設する際にはキャタピラー社とジョン・ディア社(米国大手建設機械メーカー)の建設機械を大いに活用すると公約しました。

グローバリゼーションは一般市民に雇用に関する不安をかきたてていますが、トランプ氏はこの状況に飛びつきました。
日本の対米輸出額はアメリカの対日輸出額の約2倍という金額です。

しかし現代社会のグローバリゼーションはトランプ氏が展開する批判において語られるような、単純な図式のものではなく、国内企業と外国企業を明確に区別することは難しいというのが現状です。
日本国内の工場に加え、小松には世界各国に生産拠点があり、油圧ポンプとモーターという基幹部品を日本から輸入し高額な設計料と技術開発費用を日本に支払ってはいるものの、アメリカ国内にも3カ所の工場があります。

Abenomics 2
キャタピラー社とジョン・ディア社の状況は似たようなものですが、製造部門はアメリカ国内と海外の両方にあります。
ただし、技術設計部門のほとんどはアメリカ合衆国に留め置いています。

しかしこうした客観的事実はさておき、トランプ氏の攻撃は、予備選挙の重要な緒戦となったミシガン、オハイオ両州で効果を発揮しました。
この2つの州はその産業構造から、海外メーカーの力が強まると直接的に不利益を被ることになります。
これらの州では自動車メーカーとその組合が大きな影響力を持っていますが、両者とも日本政府が実質的に円の切り下げ政策を行ったとして批判を強めてきました。

伝統的に民主党を支持してきた全米自動車労働組合の担当者は次のように語りました。
「最終段階ではトランプ氏を支持するつもりはありませんが、日本政府の円安政策について問題だとする姿勢は評価します。」
日本の円は2012年以降、ドルに対して約40パーセントと大幅に値下がりしましたが、今年に入りいくぶん値を上げています。
円安は、トヨタとホンダなどの日本の自動車メーカーが海外での売上を日本に持ち込む際、為替差額を利用しその額面が膨らむという効果をもたらしました。

アベノミクス01
これについて日本の政府当局は、円の値下がりは日本国内で続くデフレーションを何とか収束させようと採られている政策の副作用であり、もとより円安を狙って採られた政策ではないと主張しています。
しかし安倍首相は2012年、日本の製造業の業績の回復を目的として、円安誘導のため公然と働きかけを行いました。

「日本政府はこうしたあからさまな干渉はもうしないかもしれませんが、だからと言ってその目標とするところが変わった訳ではないのです。」
フォード社の国際政治情勢担当のスティーブンE.ビーガン副社長がこう語りました。

選挙目的でこの問題を取り上げ始めたのだとトランプ氏を批判することは当たりません。

彼は何十年もの間何度もこの問題を取り上げてきました。
「日本人はアメリカにやって来ては、車をビデオ機器を思う存分売って回る。そしてアメリカの同業社を存分に叩きのめしている。」
1988年、トランプ氏はオプラ・ウィンフリーにこう話しました。
1990年のプレイボーイ誌のインタビューでは次のように語りました。
「日本人は、まず最初に日本製の耐久消費財を大量に買わせて、アメリカ人から根こそぎ金を巻き上げる。次にその金を使ってマンハッタン全域を買い占めてしまうのだ。」

防空識別04
軍事についてトランプ氏は、締結されてから数十年が経つ日米軍事同盟の不平等について批判しています。
もし日本が他国に攻撃を受けた場合、アメリカ合衆国は支援のため軍事行動を起こさなければなりません。
しかし戦争を放棄している平和憲法を持つ日本は、逆の場合にアメリカを軍事的に援助することはできません。
この憲法は第二次世界大戦(太平洋戦争)直後のアメリカの占領下で起草公布されたものでした。

この点は安倍首相もトランプ氏同様、『対等ではない』軍事同盟の内容、すなわち日本が軍事力を行使できないことに不満を抱いています。
憲法の専門家、そして日本の多くの市民たちが反対しているにもかかわらず、彼は日本の軍隊が海外紛争などの場でもっと積極的に軍事的に『貢献』できるよう、法改正などに取り組んできました。

もしアメリカ合衆国が孤立主義の方向にかじを切れば、安倍首相のこうした姿勢への追い風が吹くことになるかもしれません。
しかしより高い視点から見れば、日本が単独で東アジア地区の勢力均衡を図るのは、明らかに難事です。
アメリカがこの場所から手を引けば、軍事的台頭を続ける中国と北朝鮮の狂信集団の存在を前に、日本の政治指導者たちは、たとえ一瞬たりとも気を抜く暇など無くなってしまいます。

日米艦船
「米国は極東アジアの安定のため、日本がもっと大きな役割を担うべきだと言い続けてきました。」
安倍首相率いる自民党の愛知治郎議員がこう語りました。
「トランプ氏はその点についてこれまでにない程極端な言い方をしていますが、日本がもっと大きな負担を背負わなければなくなっていることは事実です。」

〈 完 〉
http://www.nytimes.com/2016/03/08/business/international/unease-after-trump-depicts-tokyo-as-an-economic-rival.html?ref=topics
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【 シカゴでぶつかったトランプ支持者と抗議反対グループ 】

アメリカNBCニュース 3月11日

トランプ11
シカゴ市内でトランプ支持者と抗議反対するグループが衝突、『双方の安全のため』トランプ氏の支持者集会は中止されました。
トランプ氏の支持者集会の開催に抗議する人人。(写真上下・以下同じ)
トランプ12
トランプ13
トランプ14
トランプ氏の支持集会が中止になったことを祝う抗議反対するグループの人々。
トランプ15
http://www.nbcnews.com/slideshow/protesters-trump-supporters-clash-chicago-n537066

【 アメリカ全土に『日本叩き』の火をつけてまわるドナルド・トランプ 】《前篇》

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所要時間 約 10分

『貿易分野でアメリカの利益を台無しにしている』相手として中国とメキシコに加え、日本を名指しで非難
トランプ氏の主張に引きずられる他の大統領候補者、選挙の進行に合わせ、日本バッシングが過熱加速する恐れ

ジョナサン・ソブル、キース・ブラッドシャー / ニューヨークタイムズ 3月7日

トランプ01
( 写真 : 1987年当時のドナルド・トランプ )

ドナルド・J・トランプは、共和党大統領指名獲得争いにおけるその騒々しいキャンペーンで、しばしばアメリカの貿易相手国に攻撃の矛先を向けてきました。

中国の場合は、貿易によってアメリカから雇用機会を『むしり取っている』と非難しています。
そしてメキシコの場合は、国境の向こう側で不法移民の流入と麻薬の氾濫を『見て見ぬふりをしている』相手です。

しかしもし時代錯誤をしていないのであれば、最も興味深いのは日本に対する批判です。
トランプ氏は3月に入ってからの各州における共和党指名争いの集会における議論で、『貿易分野でアメリカの利益を台無しにしている』相手として中国とメキシコに加え、日本を名指しで非難しました。
トランプ氏はこれまで日本を、
◎ 円対ドルの相場を人為的に操作し、不正に経済的に優位な立場を得ている
◎ 日米軍事同盟のリスク負担とコスト負担についてはアメリカ側が一方的に重く、不平等である
として、非難してきました。

トランプ04
( 写真 : 1987年時のアメリカの雑誌『タイム』の表紙 )

トランプ氏のこうした批判はかつて日本が経済的な絶頂期にあった時代を思い起こさせます。
当時の日本はアメリカ文化の象徴とも言える映画会社やロックフェラーセンターなどを次々買収して行きました。

しかし1990年代に入ると日本の経済成長はほぼストップしました。
アメリカの対日貿易赤字は一向に減る気配はありませんでしたが、貿易摩擦問題はほとんど問題にされなくなりました。
かつて日本の政府当局者は『日本叩き – ジャパン・バッシング』を恐れていましたが、今はアメリカの関心が活動がもっと活発な他の地域、たとえば中国などに向かっている『日本離れ – ジャパン・パッシング』について懸念しなければならない時代になったように見受けられます。

「日本についてのトランプ氏のコメントは、日本がアメリカの絶対的優位を脅かす存在になり得ると考えられていた1970年代後半から1990年代半ばの時代を思い起こさせます。」
かつての防衛担当アメリカ政府職員で、現在はリベラル派のアメリカの政策研究グループ『センター・フォー・アメリカン・プログレス』の上級研究員を務めるグレン・S・フクシマ氏がこう語りました。
「日本経済がこの20年間停滞を続けているにもかかわらず、トランプ氏がアメリカ人の雇用機会を奪っている経済的ライバルとしての日本という考え方をみがえらせようとしていることは、興味深い事実です。」

トランプ02
( 写真 : 1989年アメリカのロックフェラーセンターの買収を発表する三菱の役員 )

また韓国の釜山国立大学の東アジア・スペシャリストであるロバートE. ケリー氏は、トランプ氏が共和党の大統領指名争いの議論の場で、度々日本をやり玉に挙げていることについて、ツイッターで次のようにツィートしました。
「日本、日本、日本!トランプは、マイケル・クライトンの80年代を生きている!」
(マイケル・クライトンは1992年に発表した説『ライジング・サン』の中で、ゴルフ接待や系列、やくざなど日本ビジネスの暗部に迫り、日本人とアメリカ人のモノの考え方の違いや文化の壁を表現したとされる。)

トランプ氏の優勢は現在、日本で重大な懸念を引き起こし始めました。
たとえホワイトハウスに到達する前にトランプ氏が力尽きてしまったとしても、キャンペーン期間中に彼が繰り返し訴えた主張により、アメリカ人が日米貿易の中身について神経質になり、日米同盟の継続について懐疑的になることを、日本は警戒しています。

「外務省職員である私の友人は、今パニック状態です。」
東京大学の国際政治の専門家である藤原帰一教授がこう語りました
「私は長い間アメリカの政治史に注目してきましたが、これ程あからさまに保護貿易主義を主張するアメリカ大統領候補を見たのは初めてです。」

共和党大統領候補選びに決定的な影響力を持つスーパー・チューズデーでトランプ氏が決定的勝利を収めた翌日、日本の主要な全国紙はこぞって批判的な社説を掲載しました。

トランプ
「アメリカの政治の舞台で大きな地殻変動が起きているとすれば、そこにはアメリカ国内の格差の拡大とその他の諸問題について、アメリカの大衆の不満のはけ口として日本が利用される危険性があります。」
日本経済新聞はこう伝えました。

懸念のひとつは、ライバル候補たちもトランプ氏の主張に引きずられ、孤立主義的主張を強める可能性があるという事です。
2月、民主党の大統領候補指名争いでトップを走るヒラリー・クリントン氏も、ライバル候補のバーニー・サンダーズ氏同様、アメリカの地方紙に掲載された論文の中で日本と中国を批判し、両国に対する貿易上の懐疑論者の列に加わりました。
「中国と日本、そして他のアジア経済圏各国は、自国通貨を安根に誘導することにより、その産品価格を人為的に引き下げる政策を長期間にわたり続けてきました。」
懸念のひとつは、ライバル候補たちもトランプ氏の主張に引きずられ、孤立主義的主張を強める可能性があるという事です。

2月、民主党の大統領候補指名争いでトップを走るヒラリー・クリントン氏も、ライバル候補のバーニー・サンダーズ氏同様、アメリカの地方紙に掲載された論文の中で日本と中国を批判し、両国の対米貿易のあり方に疑問を呈する立場に変わりました。
「中国と日本、そして他のアジア経済圏各国は、自国通貨を安根に誘導することにより、その産品価格を人為的に引き下げる政策を長期間にわたり続けてきました。」
クリントン氏はこのように書き、アメリカ合衆国が
「効果的新しい対策、新たな税の検討あるいは関税制度について」
検討しなければならないと書きました。
TPP05
クリントン氏はさらに、現在批准待ちとなっている日本を含む12カ国が参加する環太平洋パートナーシップ(TPP)に対する支持を取り下げることを表明しました。
クリントン氏はこれまで国務長官として、これまでTPPの締結を支援する立場を取ってきました。

「私たちは(TPPの交渉内容に沿って)新しい法律やこれまでの規制に関する見直しを進めてきましたが、それがすべて空中分解してしまう可能性があります。」
TPP交渉に加わって来た日本の所轄官庁の高官がこう語りました。ただし交渉内容は機密事項のため、匿名を条件に取材に応じました。
「私たちは合意内容について、できるだけ早く参加各国と一緒に批准を行い、アメリカがこの期に及んで態度を翻さないように圧力をかける必要があります。」

〈 後篇に続く 〉
http://www.nytimes.com/2016/03/08/business/international/unease-after-trump-depicts-tokyo-as-an-economic-rival.html?ref=topics
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【 大詰めに近づく民主共和両党の大統領選候補者選び 】

アメリカNBCニュース 3月15日

予備選01
15日火曜日、オハイオ、フロリダ、イリノイ、ノースカロライナ、ミズーリの5つの州の有権者は、共和党、民主党の大統領候補指名のため投票を行いました。

シンシナティの救世主エスコパル教会で投票する人々。(写真上)

ノースカロライナ州では賛否両論が解れる中、「有権者ID」法が施行されました。
投票資格を確認するため運転免許証を確認する作業。(写真下・以下同じ)
予備選02
ミズーリ州にファーガソン市内の小学校で投票用紙を受け取る手続きをする女性。
予備選03
コインランドリーで投票するイリノイ州の有権者。
予備選04
ノースカロライナ州の投票所となった消防署に夜明け前から行列を作る人々。
予備選05
http://www.nbcnews.com/slideshow/voters-hold-candidates-fate-separation-tuesday-n538861

【 事故発生から5年、遥かな先にしか見えない福島第一原発の事故収束 】《後篇》

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所要時間 約 8分

福島第一原発の溶け落ちた核燃料取り出しの着手は、70年~80年先と見るのが現実的
かつて人間が暮らしていた場所は、1000万個を超える低線量放射性廃棄物の詰まったビニール袋でいっぱい
福島の被災地の環境中の放射線量を1ミリシーベルト以下に下げるのは、『非現実的』

2016GRD

ジャスティン・マッカリー / ガーディアン 3月11日

溶け落ちた燃料の除去にいつ着手すべきなのか、その答えを明確にすべきだとの求めが各方面から寄せられる中、日本の原子力発電所の運用を監督する立場にある人からも、現在の廃炉計画に対する疑問が提示されるようになりました。

先月、原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員は、溶け落ちた燃料の全てを取り除くためには40年以上の時間が必要なのではないかとの考えを明らかにしました。
「私は正確な答えを知っているわけではありませんが、溶け落ちた核燃料デブリを取り出すにはこれから70年〜80年という年月が必要ではないだろうかと考えています。」
更田委員は取材した記者にこう語りました。
「他にいくつかの方法が考えられます。可能な限り多くの核燃料デブリを取り出した後、取り出せない残りを固化させてしまうのも選択肢の一つです。」

福島第一汚染水タンク
福島第一原子力発電所の安定した状態は、核燃料が再加熱しないよう絶え間なく原子炉内に注ぎ込まれている大量の水によって実現しています。
今のところそれ以外の手段はありません。
この方法はその効果が実証されていますが、一方で大量の放射能汚染水を作り続けています。
発電所の丘側から流れ込む地下水と冷却剤が混じり合った液体が原子炉内の核燃料に直接触れるため、高濃度の放射能汚染水と化してしまうのです。

こうして高い放射能に汚染された水が毎日大量に作りだされる結果、福島第一原発の敷地内を覆うようにして莫大な数の汚染水補完タンクが作り続けられています。
東京電力はこの汚染水から62種類の放射性物質を除去し浄化する装置を有しますが、トリチウム(三重水素)だけは取り除くことができません。
このため地元の漁業組合などから上記の浄化処理済みの汚染水を太平洋に放水することについて、同意を取りつけることができずにいます。

凍土壁01
地下水が福島第一原発の敷地内に流れ込む前にポンプでくみ上げ、これをそのまま海洋中に放出する対策を取った結果、汚染される地下水の量を一日あたり400トンから150トンに減らすことができました。
しかし今、長年福島第一原発の事故収束・廃炉作業現場を苦しめてきたこの汚染水問題を解決するための決定打となるはずだった技術が、別の問題に行き当たりました。

東京電力は約3,000億円の費用を投じ、地中を凍結させることにより遮水壁を建設し、汚染水問題の決定的解決方法とする予定でしたが、工事作業が遅れている上、その効果に疑問が呈せられるようになったのです。
この方法は今年の始めに工事を完了させた地中に埋め込んだ無数のパイプに、冷却剤を注入し地中に遮水壁を築き、地下水の流入を防ごうというものです。

福島第一原発の敷地内には現在1,000基850,000トン分の汚染水保管タンクが建造済みですが、その限界に近づいています。
そこでさらにタンクを増設し、汚染水の収容能力を100万トン近くにする計画が進められています。

汚染水浄化装置
東京電力の原子力・立地本部長代理を務める菅野定信氏は、2020年までに前述の方法によって放射性物質を処理した汚染水を原子炉の周囲で保管し、これに必要なだけの処理を繰り返し冷却水として使用する計画を持っていると語りました。

事故発生から5年の間うちすてられた町や村の周辺には、福島を再び人間が住める場所に戻すための数多くの骨の折れる作業が遅れがちになっている状況が見てとれます。

福島第一原発の事故では160,000人が自宅を捨てて避難することを強いられました。
そして未だにそのうちの100,000人は自宅に戻ることができずにいます。
そして放射線の低線量被ばくが引き起こす健康障害を懸念する両親の判断により、約10,000人の子供たちは避難したまま福島に戻ることなく別の場所で暮らし続けています。

この子供たちがかつて暮した場所には除染から出た汚染土その他の低線量放射性廃棄物の詰まった1,000万個以上の黒いビニール袋が、家や学校、そして公共施設の周囲などに山積みにされ、そこがそのまま放射性廃棄物の一時保管場所になってしまいました。

低線量放射性廃棄物ビニールバッグ
進展の遅れはここでもまた著しく、各地方自治体の報告を集計すると40カ所以上の地区・村落の除染が終わらないままになっています。
前例のないほど巨大な規模で進められている除染作業は、環境中の放射線量、つい先ごろ日本の環境大臣が『非現実的』だと批判した1ミリシーベルト以下にするという目標の下、進められています。

日本政府は今後12ヵ月間にさらに多くの市町村の避難命令を解除しようと、現在作業を進めています。
しかし事故発生5周年の直前に行われた原発被災者を対象とした調査では、3人に2人が故郷に再び戻って生活するという希望を永遠にあきらめたと答えました。
「福島第一原発の事故発生後の緊急事態は未だに続いていると認める一方で、住民政策においては避難命令を解除し、原発被災者に自宅に戻れと日本政府が言うことは間違っています。」
2016年3月始め、東京で行われた集会の会場で、福島から避難している73歳の熊本美也子さんがこう語りました。

〈 完 〉
http://www.theguardian.com/environment/2016/mar/11/fukushima-daiichi-nuclear-reactors-decommission-cleanup-japan-tsunami-meltdown
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【3月3日 – 10日の報道写真から 】《2》

アメリカNBCニュース 3月10日

week09
2016年3月5日、イタリア、バラッツェの海で強風の中うねりを乗りこなすサーファー。(写真上)

3月7日のインドのパッシュカー、パッシュカー湖でマハシヴラトリ祭りでシヴァ神に捧げる水を汲むヒンズー教徒の女性たち。(写真下・以下同じ)
week11
3月4日バチカンのサンピエトロ大聖堂で、懺悔する法王フランシス1世。
week12
3月4日パリ、クリスチャン・ディオール・ファッション・ショー2016-2017秋/冬ものコレクションの発表会場に設けられたゲスト用設備の鏡に反射するルーブル美術館。
week13
3月5日トルコ、イスタンブール、日刊紙ザーマン発行本社の前催涙ガスが撒かれる中、通りに座って泣いている女性の話をかがみこんで聞く機動隊の警官。
トルコ政府当局は、真夜中ザーマン発行本社を急襲し、政府批判の口封じの挙に出ました。
week14
3月4日カリフォルニア州テハチャピの州道223号線脇で、フェンスの支柱から支柱へと飛び移るテリムクドリモドキ。
week16
http://www.nbcnews.com/slideshow/week-pictures-march-3-10-n536061



【 事故発生から5年、遥かな先にしか見えない福島第一原発の事故収束 】《前編》

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所要時間 約 9分

溶け落ちた核燃料の塊を取り除く作業を、2021年に開始するという構想は非現実的
福島第一原発の状況が正常に近づいているという宣伝工作、目的は反原発感情を殺ぐこと

2016GRD

ジャスティン・マッカリー / ガーディアン 3月11日

2011年の津波の後発生した福島第一原発の3基の原子炉のメルトダウン、そこから溶け落ちた核燃料を取り除くには最低でも40年、場合によってはそれ以上の月日を要する見込みです。

事故発生から2年間続いた名状しがたい混乱は、原子力発電所事故史上に福島第一原子力発電所の名を永久に刻み込むことになりました。
福島第一原発の現場の事故収束・廃炉作業という、最も重い課題と向き合っている一人の男性が当時を振り返り、
「まるで野戦病院のようでした…」と語りました。
男性は事故現場から溶け落ちた核燃料を取り除くという、日本がかつて経験したことの無い難しい作業を進めなければなりません。

「現在、現場の状況はずいぶんと落ちついている、そして私たちがやっと前に進める状況になっている、心からそう感じられるようになりました。」
福島第一原発で事故収束・廃炉作業の指揮を執る東京電力社員の増田尚宏氏がこう語りました。

2016GRD2
2011年3月マグニチュード9.0の巨大地震が引き起こした巨大津波は日本の東北地方太平洋岸で約19,000人の命を奪い、福島第一原発では3基の原子炉をメルトダウンさせました。
それから5年、その場所は今、巨大災害の現場から多種多様な建造物が立ち並ぶ建設現場に様相を一変させました。

増田氏は今、1,200人の東京電力職員に加え、約6,000人の作業員が働く現場で、彼らに温かい食事と休憩場所を提供する施設の中に居て、福島第一原発の施設の内外で放射線量が下がったことを指摘できるようになりました。
さらには放射能で汚染された膨大な量の地下水についても、処理の目算が立ってきたと語りました。

2014年後半、東京電力は福島第一原発の事故発生以降、恐らく最も危険とされる作業に着手しました。
4号機の核燃料プールから数百本に上る使用済み核燃料を取り出す作業を完了させたのです。

しかし破壊された1~3号機の中から溶けた核燃料を除去するという、これまで原子力発電所を運営する機関がかつて経験したことの無い困難な作業については、やっと緒に就いたというのが実態です。

福島線量01
現在東京電力が把握しているのは、2011年3月11日の事故では原子炉の冷却装置が完全に機能停止し、3基の原子炉がメルトダウンしたという事だけです。
そのすら東京電力は当初、認めようとはしませんでした。

最も懸念されるのが原子炉1号機です。
国際原子炉廃炉研究機関によれば、1号機の溶解した高温の核燃料は圧力容器の底を突き破って原子炉格納容器の底に達し、さらにはそこを通過して原子炉の基礎部分であるコンクリートの中にまでもぐりこんでいると見られています。
2号機と3号機で発生したのは、部分的なメルトダウンであったと考えられています。

ガーディアンの取材に対し、増田氏と東京電力の技術者は、溶け落ちた核燃料がどういう状態でどこにあるか、正確には把握できていないと認めました。
「正直なところ、私たちは未だ取り出さなければならない核燃料がどこにあるのか、正確には把握していません。これからさらに詳細な調査を進める必要があります。」
増田氏は最近行われた記者会見でこう説明しました。
「しかし対象となる核燃料が低温状態で固体化し、核分裂が起きていないことだけは解っています。」

「このような作業はこれまで誰も経験したことがありません。しかし30年~40年という時間をかければ、事態を着実に前に進めることができると考えています。状況が変化する度、この事故収束・廃炉作業完了の目標を変更するのは間違っていると指摘する関係者もいますが、私たちは考え得る限りの方法について検討し、決して安易な結論を出さず、こうした目標を設定したつもりです。」

waste06
原子炉内部の奥深くまでロボットを到達させるための技術開発も必要です。
こうした場所では放射線量がきわめて高く危険であり、こうした場所で正常に動作する装置は未だ開発されていません。
昨年になり特にがれきが散乱する配管や連結部分について検証するよう改造された2台のロボットがきわめて放射線量が高い原子炉内部に入り、炉心近くの様子を確認することができました。
こうした状況にあるにもかかわらず、東京電力は約2兆2,000億円と見積もられる予算をかけ、2021年からこの溶け落ちた核燃料の取り出しに着手し、以後事故収束・廃炉作業を30年から40年で完了させるというロードマップにこだわり続けています。

しかしグリーンピース・ドイツの原子力問題の専門家の幹部であるショーン・バーニー氏は、この事故収束・廃炉作業のスケジュールは、日本が巨大原子力発電所事故から確実に立ち直りつつあるという事を一般市民に信じ込ませるための宣伝工作に過ぎないと語りました。

「溶け落ちた核燃料の塊を取り除く作業を2021年に開始するという構想は現実的なものではありません。現実にそれが可能になるとは到底考えられません。」
バーニー氏はこう語りました。

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「ロードマップは技術的根拠に基づくものではなく、政治的配慮によるものです。」
「これは福島第一原発の危機に対する日本政府と原子力産業界の姿勢を、如実に表すものです。現状は着実に正常な状態に近づいているという印象を広めることにより、一般市民の原子力発電所の再稼働に対する反発を弱めようというのがその狙いです。」
「溶け落ちた核燃料を取り出し、それを安全な状態で保管できるようになるまで、いったいどれ程の時間を要するか、それを解っている人など存在しません。解っているのは何十年、それからさらに何十年、さらに何十年という歳月が必要だという事だけです。」

〈 後篇に続く 〉
http://www.theguardian.com/environment/2016/mar/11/fukushima-daiichi-nuclear-reactors-decommission-cleanup-japan-tsunami-meltdown
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【3月3日 – 10日の報道写真から 】《1》

アメリカNBCニュース 3月10日

week01
2016年3月5日、マケドニアとの国境に近いギリシャのイドメニで、ワゴン車の側面に映し出されたアニメ映画を見る難民の子供たち。
現在数千人以上の難民がマケドニア領内に入ることを許されず、ギリシャ国内に足止めされています。(写真上)

3月にイエメンの首都のサヌアで開かれたサウジアラビア主導の空爆に抗議する集会の様子を、テント越しに見守る女性。(写真下・以下同じ)

week02
3月9日に皆既日食の間、カンボジアの首都プノンペンの建設現場で働く労働者。
week03
3月9日ドイツのブレーメルハーフェン動物園で、母親に体をこすりつける北極グマの子ども。この小熊は2015年12月11日に生まれたばかりですが、まだ名前は付けられていません。
week04
3月8日のアリゾナ州のカンザスシティー・ロイヤルス対コロラド・ロッキーズの練習試合で、ダグアウトの近くに大量に群るミツバチを驚いて眺めるバットボーイの少年。
week05
3月7日のイングランド、ノーサンバーランドのハドリアヌス城壁近くのシカモアギャップに輝くオーロラ。
week06
http://www.nbcnews.com/slideshow/week-pictures-march-3-10-n536061

【 安部政権が行なっている報道の自由の圧殺について 】ワシントンポスト社説

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所要時間 約 6分

安倍氏の首相就任以来、日本の報道機関に対する政権とその与党による圧力は陰に陽に繰り返されてきた
日本が第二次世界大戦後に成し遂げた中で最も誇るべきものは何か、改めて考えるべきである

ワシントンポスト論説委員会 2016年3月5日

安倍首相WP
3年前に安倍首相が政権交代のきっかけとなった選挙の際掲げた、日本経済を復活させるとした野心的な経済政策であるアベノミクスは、これまでのところ期待された程の結果を出すには至っていません。
安倍首相は「3本の矢」を放つと公約しました。
3本の矢の中身は財政刺激、金融緩和、そして構造改革です。

安倍首相は金融緩和の分野において最も劇的な手法を用いました。
その中心を担ったのが日本銀行であり、もっとも最近では市中銀行が日銀に預金する際の金利をマイナスにするなど、大胆な反デフレーション政策を試みました。

しかしその結果は見える限りにおいては、思わしいものではありません。
2015年10~12月の第4四半期の国内総生産の伸びはマイナスに終りました。
経済の先行きに対する日本国民の懸念は深まり、内閣支持率も低下しています。
一方で近隣の中国と北朝鮮による軍事的圧力の増大も、日本の国内世論に強い作用を及ぼしています。

こうした良くない報告が続くようになると、権力の座にある者は往々にして情報の運び手に攻撃の矛先を向けるようになります。
実際、安倍首相もその例外ではないようです。

事実、安倍氏の首相就任以来、日本の報道機関に対する政権とその与党による圧力は陰に陽に繰り返され、国内外において批判の的となってきました。

安倍 3
多くの国民にとって、安倍首相が日本の重要報道について干渉を強めようとしている姿勢を象徴する出来事が、2014年1月、はっきりと体制支持者であることが明らかな人間を公共放送であるNHKの会長に任命した事でした。
新任の会長は早速記者会見を開くと、第二次世界大戦(太平洋戦争)中に旧日本軍が強制的に女性たちに売春を強いたことについて、『戦争中にはどの国でも見られたありふれた出来事』であると言い放ちました。

この時以来、NHKとその主張においてライバル関係にあったテレビ朝日の番組制作には、安倍首相の与党である自民党の意向が強く反映されるようになりました。

また安倍首相の与党議会勢力のメンバーは、政権に批判的な沖縄の地方新聞社2社の広告収入を脅かす挙に出たのです。
この点については安倍首相は後日、謝罪を行いました。

ここ数週間において目についたのは、テレビ・ジャーナリスト – 安倍政権に嫌われていることが誰の目にも明らかな3人が、安倍首相の支持者である各放送網の経営陣の圧力によると思われる状況下、辞表を提出したという出来事でした。
一連の辞表提出は、政治問題について『公正』な報道を行わない放送局については、放送免許を取り消すことも辞さないという2月8日の総務大臣の物議をかもした発言と軌を一にしていました。
発言の根拠とされたのは、これまでほとんど有効に使われた事例のなど無い日本の放送法です。

日本民間放送労働組合連合会は声明を発表し、この発言は『脅迫』だと非難しました。

日本のメディアは強い影響力を持っていますが、国境なき記者団が評価した世界報道自由度ランキングでは、2010年には世界で11位であったものが、2015年には180カ国中61位にまで順位を落としました。

安倍首相03
アメリカの報道基準で言えば生ぬるい程度の批判であっても、安倍首相がど怒りを露わにするのは、安倍政権の安全保障政策に関する報道に対してであると見られています。
安倍政権が打ち出した政策は第二次世界大戦(太平洋戦争)後初めて、日本の軍隊に海外での戦闘活動を可能にしました。

日本は現在経済問題と安全保障に関わる分野で難問に取り組んでいます。
安倍首相はこれらの分野で実情に合わせた改変を加えようとしていますが、一方でこうした問題が論争の的となるのは当然であると言えます。

しかしいかなる課題があるにせよ、日本が第二次世界大戦(太平洋戦争)後に成し遂げた中で最も誇るべきものについて忘れるべきではありません。
それは『奇跡の経済成長』ではありません。
独立した自由な報道機関を含む、自由主義制度の確立です。

安倍首相が最終目標とするものの達成のため、する価値がある、できる、あるいはするべきである、どのように考えているにせよ、この自由主義制度を壊すことだけは決してやってはならないことなのです。

https://www.washingtonpost.com/opinions/squelching-bad-news-in-japan/2016/03/05/497b7be8-da60-11e5-925f-1d10062cc82d_story.html

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