【 守るべきは米国議会における自分の誓約、日本の平和主義ではなく 】《前編》ECO
どんな議論が行われようが、数の力により強引に安全保障関連法案を成立させることは可能だと踏んだ安倍首相
アメリカ軍と自衛隊の共同戦闘行動を可能にする、戦後最も重要な法体系の変更、それが安全保障関連法案
エコノミスト 7月11日
2015年7月、日本の国会は戦後最も重要な法体系の変更について議論を行ってきました。
安倍晋三首相は、海外における同盟国軍の軍事行動に日本の自衛隊を『積極的に』参加させ、敵の攻撃にさらされている同盟国軍を掩護するための戦闘行動を行う事を、もっと容易にしたいと考えています。
同盟国軍の筆頭はもちろんアメリカ合衆国です。
しかし軍事分野における日本の平和憲法による制限をゆるめようとする安倍首相の長年の宿願は、日本国民の最も嫌うところであることは明らかです。
安倍政権は衆議院で複数の安全保障関連法案を7月16日までに、強引に通過させることを望んでいます。
第二次世界大戦(太平洋戦争)中に日本に軍事的に征服されていた隣国の中にはこの法案に不安や不満を持つ国もありますが、これらの法案は軍事態勢を全面的に変更するわけではありません。
日本は国連の平和維持活動であっても、実戦部隊を派遣することはできません。
日本自体が『存亡の危機』に陥りかねない状況にあると判断された場合に、同盟国の軍隊の援護のため戦闘行動を行うことが可能になります。
安倍首相にとって頭が痛いのは、このところ下がり続けている政権支持率が、今回の法案提出によりさらに一層下向いていることです。
国営放送のNHKの最近の世論調査では、ほとんど半分の国民がこれらの法案の中身を理解していないことを明らかにしました。
強く政府支持の立場をとる産経新聞でさえ、国民の約60%がこの夏これらの法案を成立させることに反対していることを伝えました。
そして自由主義を代表する立場の朝日新聞によると、政府に対する一般国民の支持率は、昨年末に抜き打ちの解散総選挙を行い、その勝利によって第2次となった安倍内閣の支持率が、初めて40%を下回ったと伝えました。
そして3人の高名な憲法学者が、政府が提出する法案は明確に憲法第9条に違反していると国会開会前に証言すると、安倍首相の困難な立場は一層のものとなりました。
日本は『正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。』
これが日本国憲法第9条です。
3人の憲法学者のうちの一人は、他ならぬ安倍首相率いる自民党が検討を委嘱した長谷部恭男(やすお)早稲田大学法学学術院教授でした。
安倍首相は日本が武力紛争に巻き込まれることを望まないと語っていますが、アメリカとの同盟関係を重要視しています。
そのアメリカは世界の警察としての巨額の軍事負担に、国家財政がもはや耐えられなくなっている事を認め、一部を日本が肩代わりしてくれる事を強く望んでいます。
日本とアメリカはともに、中国の軍事的台頭と狂気の度を増す北朝鮮の軍事的脅威について懸念しています。
そして日米両政府ともに、日本近海の防衛活動を行っているアメリカ軍艦船が中国軍の攻撃を受けるというような緊急事態が発生した際、日本の軍隊が規則に縛られて自由に戦闘行動を行えないという環境は望んでいません。
4月のワシントン訪問の目的の一つは、安倍首相とアメリカ政府の間で、日米両国の新しい防衛ガイドラインに沿った『相互運用性』を確立する事でした。
米国滞在中、アメリカ議会の議員たちに、新たな安全保障関連法案の必要性について納得させる事は、実に容易な事でした。
しかし安倍首相がこれらの法律を今年の夏には成立させる事ができると米国の議員たちに約束した事は、本国にいる国会議員たちの怒りを買う事になったのです。
安倍首相がアメリカ議会で『約束』をした時点では、日本国内ではこれらの法案は成案にすらなっていませんでした。
日本国民との間にどのようなコンセンサスも作ることなく、安倍首相が米国議会においていわば独断で行った『誓約』は、どう贔屓目に見ても軽率のそしりを免れません。
自民党が過半数を制する衆議院ではどのような議論が行われようと、それを無視してこれらの法案を成立させる事が可能ですが、自民党が議席の過半数を制してはいない参議院となると話は別です。
〈 後篇に続く 〉
http://www.economist.com/news/asia/21657432-pacifist-nation-inches-closer-taking-responsibility-its-own-security-gloves?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227
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「積極的平和主義」等々、どんな言葉を使おうと、爆弾を落とされる、肉親の命を奪われる一般市民の言葉には出来ない程の辛さを(下の写真にあるような)、70年前実に多くの日本人が体験したはずです。
帝国主義の時代も終わり、冷戦構造も解消しても尚、私たちは戦争の理由を探し続けなければならないのでしょうか?
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【 際限もなく広がり、命を奪いつづける現代の戦争 】
アメリカNBCニュース 7月23日
(掲載されている写真をクリックして大きな画像をご覧ください)
シリア国境付近で殺害された2人のトルコ人警官の葬儀。
トルコ空軍によるイスラム国空爆攻撃が続く中、誤爆によりシリア国内のクルド人武装組織の戦闘員32名が死亡しましたが、非合法化されているクルディスタン労働者党(PKK)の軍関係者はその報復として、2名のトルコ警官を殺害したと発表しました。(写真上)
トルコ人警官が殺害された事件で、クルド人の少年を尋問するトルコの私服警官。ディヤルバルク市内。(写真下・以下同じ)
7月23日にシリアのバッシャール・アサド大統領の軍の攻撃により破壊された病院の廊下を、松葉杖を抱えて歩く男性。
ヨルダンのマフラクにあるシリア難民キャンプのテントの中で。
7月21日、トルコのシュリュジュ、イスラム国の戦闘員と見られる自爆テロにより31人が死亡した事件で息子を喪い、泣き叫ぶ女性。
http://www.nbcnews.com/news/photo/today-pictures-july-23-n397566
http://www.nbcnews.com/news/world/loved-ones-grieve-after-bombing-turkish-border-town-n395846