【 散り散りになったもの、まき散らされたもの 】〈第4回・最終回〉
[ 未来を奪われた原発避難民]
デア・シュピーゲル(ドイツ)12月22日
第2部[隠され続けた真実]
馬場町長は、3月15日朝の高い放射線レベルについて何ひとつ知りませんでした。その日彼はさらに西にある二本松市の市長の自宅に向け、車を走らせていました。
しかし彼はそのとき、直感的に状況がさら悪化する可能性について、恐怖を感じていました。
二本松市では人口60,000のうち、2,000人を上回る人々が地震によって家を破壊され、住む家を失っていました。
その状況の下、馬場町長は二本松市長にこう尋ねました。
「浪江町からこの二本松市に、町民5,000人から8,000人を受け入れてもらえませんか?」
それ以来、二本松市には何千人もの旧浪江町町民が、仮設住宅やトレーラーハウスの中で生活しています。
9歳と12歳の息子を持つ渡辺恵子さんは、もうすでに3回引っ越しをしました。
この取材を行った時は、二本松市郊外のトレーラー・ハウスで暮らしていました。
渡辺さんの住居にはシミひとつなく、息子たちの教科書はきちんと緑色の本棚に並べられていました。
「私は子供たちのことがものすごく心配です。たとえすべては政府と東京電力の過失であったとしても、私は彼らを叩きのめしてやりたい、そんな気持ちです。」
福島大学から派遣された科学者たちがこの10月、 渡辺さんの息子たちの甲状腺に蓄積された放射線量を測定して行きましたが、結果報告については彼女は未だに待たされたままです。
彼女は時々パンフレットを配布したり、避難している人々に話を聞いたりして県の仕事を手伝うことがあります。
彼女の息子たちが学校から帰ってきて、自分で 冷蔵庫からアイスキャンディを取り出しました。そんな子供たちを見て恵子さんは微笑みます。
しかし彼女には子供たちに言えずにいることがあります。
「子供たちはいつかは家に戻れる、そのことを少しも疑っていはいません。」
いつの日か子供たちにもう二度と家には戻れない、そう話したときいったいどうなるか、それは彼女にもわかりません。
▽かなわぬ未来への願い
高齢者であり農民でもある半谷正夫さんは、彼の孫娘たちのことを心配しています。
彼女たちは両親と一緒に、浪江町からはるか遠く、日本海に面する新潟まで避難しました。
しかし浪江町に留まっていた間に、いったいどれだけの放射線を浴びてしまったのか、それはどれ程有害なことなのでしょうか?
正夫さん自身は浪江町がたとえ放射性物質によって汚染されているとしても、 町に戻ることだけを望んでいます。
今やそれだけが生きる目標になってしまいました。
正夫さんは時々仮設住宅の周りの砂利の上に立って、知り合いの老人たちと彼らの住まいについて話をします。
彼が失ってしまったもの、それは高瀬川で遡上する鮭をつかまえること、そして自分の畑で白菜を作ること。
「私が一番心配していることは、はたして家に帰ることができるのか、という事です。」
「それがかなう日は来るのでしょうか?」
バスの運転手をしていた菊池則人さんも、将来のことを考えると喪失感に襲われます。
「私はもう働けません。もう何もできないのです。」
彼の友人たちは日本中に散っていきました。
「親しかった人たちと話もできなくなり、さびしい思いでいっぱいですだけが残りました。」
彼の息子と娘は職を求めて、かなわぬ努力を重ねています。
菊池さん一家は仮設住宅の家賃を支払う必要はありませんが、電気代、ガス代は支払わなければなりません。
息子の卓也さんは家族としばしば口論になりますが、彼もまた孤独を感じています。
「私は放射線が原因で病気になることが怖いのです。それが本当はどれだけ恐ろしいものなのか、誰も教えてはくれないんです。」
事実、卓也さんは耐え難い苦痛を伴う、避難民としての暮らしを強いられています。
「もう一年以上も家に帰っていないような気がします。」
父親の則人さんがこう付け加えました。
「この状態のまま人生が終わってしまうなんて、そんなことは考えたくもありません。」
▽ 怒りで体が震える
馬場町長は二本松市内に小さなアパートを見つけ、妻と母親と一緒に暮らしています。
彼もまた、なぜ自分がこんなところで暮らさなければならないのか、時々疑問に思います。
しかし窮屈な仮設住宅で暮らさなければならない以上に最悪なのは、浪江町の人々のため仮設住宅の敷地内に街灯を設置するような、そんな単純なことでもいちいち許可を取らなければならない、その手続きの煩雑さの方です。
馬場町長、そして仲間である町議会議員は、本来なら東京電力と日本政府に向けられるべき人々の怒りの、避雷針としての役回りを求められます。
今でも、SPEEDIが発した警告があまりにも遅く彼のもとに届けられたことを考えると、怒りで身のうちが震えてくると言います。
「それは怒りなどではありません。」
「それ以上のものです。これは殺人です。どうして彼らは、私たち浪江の人間を殺そうとしたのですか?」
馬場町長はそう語ると、メガネの下にハンカチを差し込み、しばらくその目を押さえていました。
「どうして誰も彼らを法廷に引っ張り出して、裁こうとはしないのでしょうか?」
「人々が事故のために、こんなに苦しんでいるというのに。」
大惨事以来、馬場町長は国の根幹にかかわることについて、自分にこう問いかけるようになりました。
「日本は文明国家だ、という。そして原子力発電もその文明の象徴の一つだったはずだ。」
彼は津島の避難所にある数枚の写真、爆発した福島第一原発の原子炉の写真を見ると、いつもこう考えると語りました。
「どうして我々は、これを制御できないのだろう?」
「我々は今、自分たちが創り出してしまった、悪魔との戦いを続けているのです。」
〈 完 〉
http://www.spiegel.de/international/world/0,1518,805337,00.html#ref=rss
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『かなわぬ未来への願い』の部分で、半谷正夫さんの最後の望みを訳した途端、涙がこぼれました。
人生の最後に望むことが故郷の川で鮭をつかまえたり、自分の畑で白菜を作りたい。
豪華客船で世界を一周するとか、高級料理店で豪華な食事をしたい、というのではないのです。
そんな実直な方の、人生の締めくくりにおそった大きな悲劇。
そしてその悲劇の源を作り出したのは他でもない、私たち自身、人間でした。
イランのニュースは原発推進の立場に利用されそうだな、と感じたので載せました。
問題の発言は外交・軍事に影響力の無いイラン副大統領の発言、という点を抑えておきましょう。
最後のビデオの翻訳は、ちょっと手を抜かさせていただきました。
難しい事を言っている訳ではないので、リスニングに挑戦してみていただけませんか?
今日で2011年が終わります。
どんな年だったか?という質問が愚劣に思える程、日本人にとっては1945年以来の痛烈な年になってしまいました。
3.11の発生により突き動かされるようにして始まったこのブログですが、10ヶ月間おつきあいいただき、ありがとうございました。
2012年も1月1日から、毎日新しい記事をアップしてまいりますので、興を起こされましたら覗いてみてください。
フィンランドの作曲家ヤン・シベリウスは、念願にしていたロシアからの祖国の独立が達成されると間もなく、その作曲活動が静かに終わりを迎えました。
このブログも、3.11をきっかけに人々の間に生まれた悲願が達成されるまで続けて行きたい、そう考えています。
2012年もよろしくお願いします。
皆さんにとっても良い年になるよう、心から願っております。
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【イラン、ホルムズ海峡封鎖を警告】
世界の原油供給体制に脅威
アメリカABCニュース 2011年12月28日(AP)
火曜日、イランの国営報道機関は政府高官の発言として、西側諸国がイランの石油出荷に制裁を課す場合、イランはホルムズ海峡を閉鎖し、石油の輸出を遮断する用意がある、と伝えました。
IRNAレポートによると12月27日火曜日、モハメド・レザ・ラヒミ副大統領は、イランは決して戦闘を開始したい訳ではないが、西側諸国はイランに対する敵対行為には断固とした態度を取る、と話しました。
西側は問題となっているイランの核開発疑惑に対し、その石油取引に規制をかける制裁を検討しています。
イランの貿易収入の80パーセントが原油輸出によるものです。
ワシントンでは国務省報道官マーク・トナーはこの脅迫ともとれる発言に対し、「こけ脅しに過ぎない」と斬って捨てました。
「この発言は国際的核規制の違反を続けているイランが、問題から目を逸らさせようとまた別の手を考え出したに過ぎない。」と話しました。
ラヒミ副大統領はイランの外交・軍事問題に影響力を持っていません。
イランは世界で取引される原油の約40%が通過するホルムズ海峡で、10日間の海上演習を行っています。
海峡を封鎖すれば、世界経済に甚大な影響を与える事になります。
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【 終わる2011年 】
アメリカABCニュース 2011年12月29日
▽悲劇 - ガブリエル・ゲフォーツ上院議員、と聴衆銃撃事件
▽大災害
東日本大震災
福島第一原発
ミズーリ州ジョップラン
▽アメリカの戦争
オサマ・ビン・ラディン殺害
アフガニスタン
イラク撤退
▽飢餓
▽変革・暴動
チュニジア / エジプト / リビア
▽ロイヤル・ウェディング
▽復活
ガブリエル・ゲフォーツ上院議員
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