【 ハドソン川のフクシマ 】《2》
原発事故の避難計画は『架空の計画』、実際の緊急事態にはどんな役にも立たない代物
原発から漏出している放射性物質の実態 - 誰ひとりとして正確な状況を把握していない、それが現実
エレン・カンテロウ、アリソン・ローズ・レヴィ / ル・モンド・ディプロマティーク
4月1日
2011年の福島第一原子力発電所の事故の発生を受けて、オバマ大統領はアメリカ国内の原子力発電所が細心の注意のもとに運営され、充分な耐震性を持っていると国民に対し保証しました。
この声明の中にはアメリカで最も古い原子力発電所も含まれていました。
ニューヨーク州ウェストチェスターのインディアン・ポイント原子力発電所(IPEC)が稼働したのは1962年のことでした。
国内61箇所の原子力発電所の一つであり、 ニューヨーク市とウェストチェスター郡にかけての一般家庭に電気を供給するため2基の原子炉を設備しています。
インディアン・ポイントは世界で6番目に人口稠密な都市部であるニューヨーク・メトロポリタン地域のあるマンハッタン島の30マイル北に位置し、世界で最も大規模な経済圏のすぐ近くにある原子力発電所なのです。
しかもインディアン・ポイントは2つの活断層の上に位置しています。
このため原発の稼働継続に反対する人々は、どの程度の地震に耐えることができるのか、詳細な調査と検証を求めることになったのです。
国家防災資源会議(NDRC)が公表した報告書によれば、もしフクシマ級の原子力発電所事故がインディアン・ポイントで発生した場合には、少なくとも560万人の避難が必要となります。
さらに2003年には連邦緊急管理庁のジェームズ・リー・ウィット前長官が報告書を公表し、用意されているこの地域の既存の避難計画が不十分なものであることが明らかにされました。
フクシマの事故では、アメリカ政府当局は日本にいたアメリカ市民に対し、福島第一原発から50マイル(約80km)以上離れるよう通告しました。
もしインディアン・ポイント原子力発電所を中心に同じ円を描けば、北はアルスター郡キングストンを越え、南はジャージーシティを過ぎた所、そして東はコネチカット州、西はペンシルバニア州にまでかかることになります。
円内にはスタテン島以外のニューヨーク市全域とコネチカット州フェアフィールドの全域を含んでいます。
用意された避難計画について
「多くの学者や研究者が『架空の計画』と呼んでおり、実際の緊急事態にはどんな役にも立たない代物だとの評価がすでに決定的になっています。」
ニューヨークタイムズの取材に対し、政治学が専門のパーデュー大学ダニエル・オールドリッチ教授がこう答えました。
原子力産業界で40年間働き、その間、原子力規制委員会(NRC)にも籍を置いたことがあるポール・ブランチ氏は、インディアン・ポイントが『フクシマ』級の事故を起こせば最悪の場合コネチカット州まで含む広大な地域が、何世代にもわたって人が住めなくなる可能性があると語りました。
官民合同のインディアン・ポイント原子力発電所安全監視報告書によれば、ここでは設立当初から2005年までに23件の重大問題が発生していました。
蒸気発生器の配管の断裂、原子炉格納容器からの冷却水漏れ、トランス火事、緊急サイレンの予備電力の不足、そして放射性物質のトリチウムを含む放射能汚染水の水漏れなどです。
2016年3月に起きたばかりの汚染水漏れ問題では、インディアン・ポイントから漏れ出した放射性物質トリチウムが混入した汚染水が周辺一帯の地下水脈とハドソン川に流れ込んでしまったのです。
同時期他のアメリカ原子力工場でも同様のトリチウム汚染水漏れの問題が表面化しました。
フロリダ州にあるターキポイント原子力発電所では、この汚染水が飲料水として使われている井戸水の中に入り込んでしまいました。
インディアン・ポイント付近で採取した地下水のトリチウムの濃度は水1リットルにつき120,000ピコキュリーという極めて高い濃度の『警告』レベルである点について懸念する一方、ハドソン川の汚染レベルはそこまでは高くないという点で見解が一致しています。
(1ピコキュリーは放射能のための標準的な計測単位)
トリチウムはインディアン・ポイントから漏出している放射性物質の中では最も危険度の低いものです。
しかしニューヨーク州政府が行なった調査検証によれば、他のもっと危険な放射性物質であるストロンチウム-90、セシウム-137、コバルト60、そしてニッケル-63なども地下水系とハドソン川に流入していることが確認されています。
同原発を運営するエンタジー社の幹部たちは問題となっているトリチウムの漏出について、それがいつ始まったのか、原因が何であるか、特定できないとしています。
取材に対し、ポール・ブランチ氏は電子メールで
「問題となってる漏出がいつ始まったのかについて、はっきりした見解を示しているのは誰もいません。」
「それは、2年前に始まった可能性があります。」
しかし汚染源がどこなのか、漏出の規模はどの程度なのか、あるいはどうすれば漏出を止められるのか、誰一人として把握している人間はいないのです。
しかし汚染水漏れについては解決が長引けば長引くほど地域社会の飲料水に関わる潜在的危険性は大きなものになり、ことはトリチウムだけの問題では済まなくなってきます。
- 《3》へ続く -
http://mondediplo.com/openpage/a-fukushima-on-the-hudson
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【 ISISの無差別殺戮が作り出した母子家庭 】《6》
エリン・トリーブ、ソフィア・バルバラニ / アメリカNBCニュース 5月7日
夫をISISに殺されたヤジズ教徒の女性たちは孤独に苛まれる生活の中、社会で女性一人の力で生きていくことの限界にも直面させられています。
それでも彼女たちは母親として子供たちを守っていくことを改めて心に誓い、自らの勇気を奮い立たせようとしています。
「私たちは午前5時にシリアとの国境にまたがる山に向かって逃げました。私は一番下の娘を抱いていましたが、この子が飢餓のために死んでしまうのではないかと気が気ではありませんでした。
私たちはまる1週間を山中で過ごさなければなりませんでしたが、残念ながら母はそこで亡くなりました。
この事件が起きるまで私は自分を強い人間だと思っていましたが、シンジャル山脈で強いられた1週間の経験は、私の内面を変えてしまいました。
私は自分ではなく、子どもたちの命が危険にさらされることを常に恐れるようになったのです。」
アイロウ・カセム・アイデルは2014年1月にすでに夫を失いました。
モスル市内をパトロール中、兵士だった彼女の夫は殺されました。
その7ヵ月後暮らしていた村をISISが襲い、彼女は子どもを連れて命からがら村を脱出しなければならなくなったのです。
「私は時々、これから先の生活にはもうどんな希望も残されていないように感じる時があります。
でも私は亡くなった夫の霊に誓ったのです。何としても子供たちを守っていくと…
日中は子どもたちの世話をするのが精いっぱいで何も考えなくて済みますが、夜眠るとき、とめどもなく涙がこぼれます。
ひとりなってしまった私が4人の子供たちを育てることには大きな困難が伴います。
イスラム社会ではたとえ家族のためであっても、一度結婚した女性は自由に働くことが出来ません。
唯一の支えは子どもたちです。
私の最大の願いは子どもたちがちゃんと学校に通い、私や夫が受けたよりレベルの高い教育を受けて立派に成人することです。」
http://www.nbcnews.com/slideshow/widowed-isis-yazidi-women-find-strength-motherhood-n569466
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