思い切った銃規制だけが社会を変えられる。中途半端な規制に、効果は期待できない
アメリカ人には、この惨状を異常と捉える認識が欠けている
エコノミスト 12月22日
2012年12月14日、アメリカと中国で2人の狂った男たちが、この世で最もいたいけない子供たちを相手に、その頭の中にあった残虐な妄想を現実のものにしてしまいました。
中国河南省ではミン・ヨンジュンと言う男がナイフを持って小学校の教室に飛び込み、23人の子供たちの耳や指を切り落としました。
しかしアメリカコネティカット州のニュータウンでは、子供たちにとってさらに残酷な事件が起きてしまいました。
10分間の無差別発砲の後、20人の子供たち、6人の小学校職員、そして犯人自身も命を落としました。
このアメリカ人の男はセミオートマチックのライフルとその替えの弾倉、そして2丁のセミオートマチックの拳銃で武装していました。
あらゆる国に狂人はいます。
しかし中国人のミンが持っていたのは1本のナイフだけであったため、命を落とした犠牲者はいませんでした。
アメリカはずっと銃に関わる問題に直面してきましたが、それは今も変わりがありません。
アメリカの銃犯罪の件数はイギリスの4倍、ドイツの6倍になります。
白痴に近い人間、あるいは偏狭な考え方しかできない人間だけが、イギリスの4倍の銃犯罪が発生しているという事実と、アメリカ国内では平均すると、300mごとに1丁の銃が存在し、大人一人当たり1丁以上の銃を所有しているという事実の間に関連性は無いという偽りを、主張しつづけようとしています。
オバマ大統領は、より厳しい銃規制を行うための機会を掴んだかのように見受けられます。
しかしアメリカ人はそうした『機会の到来』を耳にするのは、オバマ大統領が初めて大統領選挙キャンペーンを始めた2008年が最初ではありません。
しかし現実になったものは何もありません。
オバマ大統領も、あえて銃規制に乗り出そうとはせず、始めの任期の4年間に議案として提出されたものはありませんでした。
民主党が共和党が打ち出す弾丸を充分に跳ね返す余裕がある、つまりは民主党が多数を占める上院においても、議題として検討されたこともありませんでした。
しかし今回の事件は、そうした流れを変えることになるかもしれません。
ニュータウンの事件は、全米ライフル協会が何がしかの対策の必要性を認める程に、残虐なものでした。
新たな銃規制が実現されるかもしれません。
1994年から2004年の間施行されていた攻撃用兵器の販売禁止措置は、リストに掲載されている多くは軍用の武器の販売を禁止していました。
あるいは『銃器ショー』の会場では、銃を購入する際に通常行われる身元調査を省略しても良い、という緩和措置の廃止が検討されることになるでしょう。
▼ 安全な暮らしを望むなら、憲法の改正が必要
規制当局が夢に見るような万能薬とはとても言えませんが、前述の対策を実施することは有効です。
しかし、多くのアメリカ人を殺しているのは、これまでの規制が対象としてきた殺傷能力の高い『武器』の類ではなく、ごくありふれた拳銃です。
さらには1994年から2004年の間施行されていた攻撃用兵器の販売禁止措置による犯罪件数の減少は、統計を取ってみて、かろうじて確認できる程度のものでしかありませんでした。
禁止武器のリストは抜け穴だらけで、行くでもその網を潜り抜けられるものだったのです。
しかもこれらの規制措置は新たに銃を購入する際にのみ適用されるものであり、すでにアメリカ国民が大量に保有している武器については手つかずのままでした。
ニュータウンで発生したような残虐な事件に子供たちが巻き込まれないようにするため、子供たちに身を守る術について徹底的に教え込む。そんなことをしなくて良い平穏な社会を、アメリカ人が作りたいと考えるなら、もっと徹底した対策を実現する必要があります。
首都ワシントン特別区とシカゴが、最高裁判所の違憲判決が出る前に(※)、拳銃の所持規制を実現させたのと同じ取り組みを、アメリカ全土に広げていく必要があります。
(※)米国連邦最高裁判所は、2008 年 6 月 26 日、コロンビア特別区(ワシントン D.C.)の短銃規制. について、武器の保有権を定めた合衆国憲法修正第2条に違反するとした違憲判決を下した。
他の先進各国がそうであるように拳銃の所持を禁止した上で、一般の人には猟銃とスポーツ・ライフルのみの所持を許可し、それも警察の資格審査、医療的なきびしいチェックを受けた後で無ければ許されないという大勢を築く必要があります。
全国規模で『銃の買い戻し』を行い、併せて銃について警察による厳しい取り締まりを実施する必要があります。
これらの措置を行うために憲法の改正が必要であれば、憲法を改正すべきです。
しかしいずれもすぐには実現できそうにもありません。
これからアメリカは銃犯罪の摘発と被害者の救済に努めながら、長い時間をかけ、銃規制への取り組みを強化して行かなければなりません。
しかし時間をかけ過ぎれば、徒らに犠牲者が増えるばかりです。
http://www.economist.com/news/leaders/21568735-only-drastic-gun-control-could-make-big-difference-small-measures-can-help-bit-newtowns
2012年12月25日朝、ニュータウンの事件現場近くの26体のデディベアのぬいぐるみ。それぞれの首には、犠牲になった人々の写真が下げられている。(アメリカNBCニュース)
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【 事件の残した傷跡 】
アメリカNBCニュース 12月21日
(写真をクリックすれば、大きな画像をご覧いただけます)
教会の外で、犠牲になった6歳のローラン・ロッソウの葬儀の開始を待つ少年。12月20日コネティカット州ニュータウン。
犠牲となった27歳の教師ヴィクトリア・ソトの葬儀が始まるのを待つ少年とその父親。12月19日コネティカット州スタッフォード。
ニュータウン・ハイスクールの校門に作られた慰霊用の祭壇に花を捧げ、祈る少年。
犠牲になった6歳のジャック・ピントの葬儀の後、涙を流す少年とその父親。
【全米で始まった『銃の買い戻し』】
アメリカNBCニュース 12月26日
ゴミ箱いっぱいの拳銃。12月26日、ロス・アンジェルス市警察が行った『銃の買い戻し』に応じて集まったもの。
ロス・アンジェルス市中心部の北、ヴァンヌイ地区でこの日行われた買戻しでは、420丁の銃がロス・アンジェルス市警によって回収された。
ゴミ箱に詰め込まれたライフル。
ロス・アンジェルス市警の買い戻し会場には、ひっきりなしに車が出入りしていた。