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【 文部科学省の国立大学運営指針に猛反発 】《前篇》

読了までの目安時間:約 7分

「国立大学は社会科学・人文科学を廃止して、法律や経済の専門教育機関に転換せよ」文部科学省が指示
「文部科学省の方針に従わない国立大学については、給付金等を減額する」文部科学省が半ば脅迫的要求
日本の高等教育を狭い分野に限定しようとする文部科学省方針に対し、実業界が望むのはその正反対

ジュリアン・ライオール / ドイチェ・ヴェレ(ドイツ国際放送) 11月6日

日の丸
日本の文部科学省は、国立大学に対し哲学や政治学のような学問の廃止を命じていたとする報道は誤ったものだと主張しています。
しかし実際には26の大学で学科の見直しについての検討が進められています。

今年6月日本国内の86の国立大学の全てに、下村博文文部科学大臣名で書簡が送付されました。
そこには明確な指示が記載されていました、あるいはそう解釈出来る内容が記されていました
下村書簡に記されていたのは、大学当局に対し[社会科学部]や[人文科学部]といった分野の組織を廃止するか、あるいは社会的ニーズの高いものに転換するという「積極的な処置」の要求でした。

具体的には国の予算を使って運営されている各大学は、教員養成あるいは文系の場合には経済学や法学系の専門家の育成に専念するよう求めるものでした。

下村
こうした働きかけを正当化する根拠として、下村文部科学大臣は「大学就学世代人口の減少、人的資源への需要、国立大学の機能を考慮した」上での措置であることを記しました。
さらに下村大臣は各大学のそれぞれの研究機関は、日本政府の資金提供に頼らなければ存続は不可能なはずだと、その通達において念を押したのです。

この脅迫的とも言える要求の趣旨は、誤りなく大学側に伝わりました。
26の大学がこれからの数年間で人文科学と社会科学プログラムを段階的に廃止していくという方針を明らかにしたのです。

▽拡大していく反発

しかし下村文部科学大臣が明らかにしたこの方針に対し、産業界、学界、メディア、そして社会は直ちに反応しました。
そして月を追ってその反応は大きくなっていきました。

大学キャンパス
国立大学協会と日本学術会議は、大学運営を日本政府の政策に沿わせることにより、経済的恩恵を受けられるようにするという方針に反対する立場を明らかにしました。
6月に公表された下村文部科学大臣のメッセージは、大学の各機関が日本政府が提供する資金に依存しているという事実をことさらに強調していました。

これに対し、日本学術会議は次のような幹事会声明を公表しました。
「一層包括的な知識基盤を築き上げるために、自然科学に加え、人文科学と社会科学がより密接に連携していく必要性が、今日ほど広く理解されていることはかつてありませんでした。世界が抱える今日的課題に対処していくためには、これらは大切なことだと考えます。」
「この点に加え、人材を育成するという側面からも人文科学と社会科学を欠かすことはできません。」
学術会議声明はこう述べ、次のように強調しました。
「人類のこれからのあるべき姿と人間社会がどう機能すべきかについて、それを相対化し批判的に省察する、人文・社会科学の独自の役割に注目すべきです。」

日本雑踏
日本の企業団体であり、政治的圧力団体である経団連の榊原会長の反応も迅速なものでした。
日本のすべての高等教育を狭い分野に限定しようとする日本政府の方針について、経団連が望むのはその正反対だとする声明を明らかにしました。
榊原会長は日本企業が求めているのは文部科学省が示したような人材ではなく、自然科学や人文科学の垣根にとらわれることなく『異なる分野を総合的に理解』し、それを把握することによって様々に機能し得る学生であると記しました。

〈 後篇に続く 〉
http://www.dw.com/en/backlash-prompts-japan-to-rethink-controversial-university-policy/a-18831857
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安倍政権の教育現場への介入については、【 安倍政権下、教科書に突きつけられる『国家主義史観』記載の要求 】ニューヨークタイムズ( https://kobajun.chips.jp/?p=25854 )等の記事をご紹介してきました。
ここに来てさらに明らかなのは、【 ユネスコにもうカネは出さない?】ガーディアン( https://kobajun.chips.jp/?p=25697 )の記事でも指摘された『いう事を聞かない奴には金はやらん!』というその政治姿勢です。
カネをやるやらないで、その国の学問のあり方まで変えてしまおうとする姿勢には、疑問以上のものを感じます。
しかもそのカネたるや、出所は私たち国民の税金なのです。

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【 足止めされる難民たち 】《前篇》

アメリカNBCニュース 11月23日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)

難民31
大量の難民の流入を受け、ヨーロッパの玄関口になっているギリシャ、マケドニア(旧ユーゴスラビア)の2か国がシリア、イラク、アフガニスタンの3カ国の出身者に限る措置をとるようになってから、大量の難民が足止めされる事態となっています。
11月22日、マケドニアの警官隊に足止めされるイラン出身の難民。(写真上)

上半身裸になって大声でスローガンを叫ぶモロッコ、イラン、パキスタンなどの難民。(写真下・以下同じ)
難民32
11月23日、自分たちの唇を縫い合わせ、抗議の意思表示をするイラン難民。
難民33
11月23日、足止めされギリシャのイドメニ村でキャンプを続ける難民たち。
難民34
マケドニアの治安警察官の前に座りこむイラン難民。
難民35
マケドニアの治安警察隊の様子を見つめる少女。
難民36
http://www.nbcnews.com/storyline/europes-border-crisis/europe-clamps-down-borders-leaving-migrants-stranded-n468376

【 中国経済の減速と日本経済の不況転落 】《後篇》

読了までの目安時間:約 7分

中国人観光客による『爆買い』、昨年比で倍以上の来日、しかし消費行動には陰りも見え始めた
安倍政権の経済政策が、日本経済が向かう方向を変えることができるとは考えられない
大企業とそこに連なっている投資家と、中小企業や一般庶民との間にははっきりと溝ができた

ジョナサン・ソブル / ニューヨークタイムズ 11月16日

日本中小企業機械製造
こうした影響は、パッケージツアーでやって来た中国人観光客が有名ブランドの衣類、ハンドバッグや電子機器などを大量に買い求めるためにやって来る、東京の銀座などの日本の商店街にも表れ始めています。
日本への観光旅行の爆発的ブームは、今年の9月まで中国本土から380万人を連れてきました。
昨年の同期間と比較すると、倍以上の人数です。
彼らの買い物意欲の旺盛ぶりは、日本語に新たに『爆買い』という単語を加えることになりました。

董長垣さんは、今年9月に電子機器のチェーン店であるラオックス銀座店に新たに雇用された中国人社員の1人です。
ラオックスには中国人の買い物客のために、ふさわしい空気清浄器、暖房式便座、そしてハイエンドの炊飯器を選ぶアドバイスをするため20~30人の中国の従業員がいます。
董さんによれば、友人や親せきのおみやげにするため、こうした製品を
「一度に4台購入する人もいます。」
中国経済の減速とは関係なく、円安による中国人観光客の買い物意欲はまだまだ旺盛だと董さんは言います。

日本経済
ある日の昼下がり、同じ銀座の小さな靴店では、およそ15人ほどの中国人買い物客が最近売り出されたばかりの商品を吟味していました。
店長の川島和浩さんは中国人買い物客の数は変わらないものの、2、3ヶ月前と比べると使う金額は明らかに減少していると語りました。
「以前は手当たり次第に買うと言った状態で、文字通り爆買い状態でした。しかし今では商品を吟味して購入するようになました。」
平均的購入額はひとりの顧客につき5,000円は下がっていると、川島さんは見積もりました。

しかし日本国内の小売業の好調さと観光客の増加は、重工業の不振によって減少した穴を埋めるほどの大きさはありません。
政府が発表した日本の対中輸出額は9月は3.5パーセント減少、2ヶ月連続の減少となりました。
この中の鋼材、自動車部品、産業機械などの幾つかの部門は平均を上回る割合で落ちこみを記録しました。

世界的なカメラメーカー、オフィス用品メーカーであるキャノンを始め多くの日本企業が、この数週間の利益について警戒すべきレベルに落ち込んでいるとの見解をあらかにしました。

また半導体製作機械の供給メーカーに加え新日鐵住金やJFEホールディングスなどの鋼材メーカーは、中国の需要の落ち込みを受け、その業績予想を下方修正しました。

日本経済成長率
「回復には、時間がかかりそうです。」
こう語るのはキャノンの財務部門の最高責任者である田中俊三氏です。
コマツの財務部門の最高責任者である藤塚幹雄氏は、中国の状況に対する同社の見方として、
「まだ底を打ってはいないと感じている。」
と語りました。

中国から吹く逆風は、経済分野において日本政府が上昇への勢いをつくることを一層難しくしています。

安倍首相のアベノミクスの名で知られる3年に及ぶ経済改革プログラム、日本銀行による大規模金融緩和策は持続的な消費者物価の下落に歯止めをかけ、円安誘導を行うことにより輸出企業に恩恵をもたらしました。
失業率は3.4パーセントとこの20年で最も低くなっています。

しかし改革はまだ「やりかけの」ままです。
スタンダード&プアーズの幹部級のグローバル・エコノミストであるポール・シェアード氏はこう指摘し、日本のデフレーションの程度はまだまだ問題がないレベルには程遠く、企業も一般家庭も経済の先行きに対する警戒を緩めてはいないと分析しています。

安部圧力
日本国内の報道によれば安倍政権は日本経済をさらに一押しするため、3兆5,000億円規模の景気刺激策をまとめ上げようとしています。
しかし日本経済を政策によって支えようとする手法は、政治的には慎重を要します。

日本経済を成長局面に向かわせる際の障害を減らすため、安倍首相は消費税をさらに2パーセント引き上げるタイミングを18ヵ月遅らせましたが、2017年4月には消費税引き上げを実現させると公約しています。
財務省は税収を増やすことにより、できるだけ多くの国債の償還を実現したいと考えています。
日本の国債の総残高はその経済規模と比較すると、世界でも最も大きなものになってしまっています。

柔和さんは経営する金属加工会社で働きながら、安倍政権の経済政策が日本経済が向かう方向を変えることができるとは考えていないと語りました。
アベノミクスは経済の食物連鎖の頂点に立つ大企業とその株や債券を持つ投資家を潤したかもしれないが、柔和さんが経営しているような中小企業に対する恩恵はほとんどなかったと彼は言いました。

日本の実質賃金
「大企業とそこに連なっている投資家と、中小企業や一般庶民との間にははっきりと溝ができました。」
柔和さんがこう語りました。
「持っているものを失わないようになんとか我慢するしかない、今はまさにそんな時です。」

※英文からの翻訳のため名前の表記に誤りがある可能性があります。
ご容赦ください。
〈 完 〉
http://www.nytimes.com/2015/11/17/business/international/japans-economy-feels-the-sting-of-chinas-slowdown.html?ref=topics&_r=0

【 中国経済の減速と日本経済の不況転落 】《前篇》

読了までの目安時間:約 9分

2015年第3四半期の日本経済、連続してマイナス成長を記録
日本の資材の大口需要先であった中国の製造業、建設業、鉱業などの成長率、状況は一層厳しいものに

ジョナサン・ソブル / ニューヨークタイムズ 11月16日

日本中小企業機械製造
中国経済の減速が明らかになると、柔和勉さんが経営する金属加工会社のような日本企業は売れ行き不振に陥り始めました。

日本の安来にある柔和勉さんが経営する金属加工会社は、手がけている分野が特殊なため、1,100キロ離れた中国経済の成長のおかげで好調な業績を上げてきました。
柔和さんとその14人の従業員が工作機械を使って精密に作り上げたギヤ、ベアリングやその他の金属部品は、最終的には中国国内の工場で巨大な掘削機械のエンジンに組み上げられます。
その掘削機はこれまで中国国内で、無謀とも言えるペースで行われてきた建設現場で活躍してきました。

しかし今、中国の経済成長は減速し、16日月曜日に公表された第3四半期の日本経済が連続してマイナス成長を記録したことが明らかになったのに歩調を合わせるように、柔和さんのビジネスも落ち込んでしまいました。

コマツ、クボタ、そして日立建設機械のような日本の機械メーカーにおける中国国内でのエクスカベータやブルドーザーの販売実績は落ち込み、その分、部品を供給している柔和さんの会社のような製造業者の販売実績もまた落ち込むことになりました。
建設分野の企業からの注文は今年、40パーセント前後減少したと柔和さんは見積もっています。
柔和さんは中国の経済市場について、次のように語りました。
「現実に間違いなく減速しています。私たちはそのことを実感させられました。」
日本中小企業製造02

日本が経済成長を実現するためには、他の先進国以上に必要とされる要件をきっちり達成する必要があります。
日本は総人口も、労働人口も減少を続けています。

かつては世界を席巻していた日本の家電業界は、今や他の国々の安価な製品に押され気味です。

安倍晋三首相は3年前、日本経済を活性化させるという公約を掲げて政権の座に就きました。
低い失業率や大企業が次々と記録的な額の利益を計上するなどの目だった効果があった一方で、肝心の経済成長と幅広い勤労収入の増加はまだほとんど達成できずにいます。

日本経済は相変わらず崖っぷちの状態にあり、わずかなマイナス要因であっても悪影響が広範に及ぶ可能性があります。
直近の2015年第3四半期には、経済の先行きの見方について慎重になっている各企業は設備投資を手控え、日本経済はこの7年間で5度目となる不況局面に落ちこみました。

Tokyo 7
中国への輸出は急落し、日本経済のマイナス成長を加速させ企業や消費者心理を一層冷え込ませることになりました。
しかし中国経済の減速の影響を受けたのは、日本だけではありませんでした。
中国では経済が減速した結果、原油や鉄鉱石などの需要も減少し、輸入先であるオーストラリア、ブラジル、エクアドルなどの資源輸出国も影響を受けました。
さらには中国の投資に依存する開発途上国もダメージを受け、その経済状況は不安定さを増すことになりました。
日本とドイツは超高層建築に使われる建設機械、そして何千という中国国内の工場で使われる工作機械を供給してきましたが、両国ともこの分野の状況が特に悪くなっています。

日本は「中国のインフラ基盤整備のため必要なすべての製品を供給してきた」
こう語るのは世界的な格付け会社スタンダード&プアーズの幹部級のグローバル・エコノミストであるポール・シェアード氏です。

こうした背景のため、中国経済の減速により日本のダメージが最も深刻なものになる危険性があります。

日本経済成長率
中国経済は崩壊した訳ではありません。
日本が2期連続のマイナスを記録した同じ第3四半期、中国経済は年率換算で6.9パーセント成長しました。
こうした数値は先進各国の状況から見れば、羨望の的であることに変わりはありません。
しかしリーマンショックによる金融不況が頂点に達した2009年以降、最も低い成長率になったことも事実です。

そして特に日本の資材の大口需要先であった製造業、建設業、鉱業などの部門の成長率は、中国全体の成長率と比較して、状況は一層厳しいものになっています。

中国はちょうど10年前、アメリカ合衆国に代わり日本最大の貿易相手国となりました。
家電業界などが目に見えて縮小傾向を続ける中、鉱業用輸送・工作機械製造、織物器械製造や半導体製造業者の対中国輸出は拡大を続け、日本経済の中でとりわけ将来性の高い分野となりました。
この間日本と中国の間では政治的対立などの問題も発生しましたが、互いに依存し合う関係にはそれ程の悪影響は及びませんでした。
しかしながら、経済活動における日本と中国の関係はこの間、変化を続けていました。
最大の問題は中国国内の人件費の上昇です。
人件費の上昇により中国国内に生産拠点を持つ日本企業の利益は低下、その結果タイとインドネシアなどの東南アジア諸国に生産拠点をシフトする企業が目立つようになりました。

Tokyo 6
安価な労働力を求める代わり、日本企業、特に小売り部門の各木々用は新しく裕福な消費者を獲得すべく、中国に押し寄せました。
コンビニエンスストアのチェーン各社やユニクロのような衣料品のチェーン店はいち早く中国国内で販路を拡大して行きました。

主に中国国内で働いている工業デザイナーである椎名智勝さんは、最近上海から帰国しました。
椎名さんは上海市内にオープンする靴のディスカウントショップの設計・建築の指導を行っていました。
「現在中国では、こうした節約志向の消費者向け商品の売れ行きが好調です。」

〈 後篇に続く 〉

http://www.nytimes.com/2015/11/17/business/international/japans-economy-feels-the-sting-of-chinas-slowdown.html?ref=topics&_r=0
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【 11月20日までの報道写真から 】

アメリカNBCニュース 11月20日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)

難民11
11月19日、セルビアとの国境付近のマケドニア領内で、検問を待つモロッコ、イラン、パキスタン出身の難民。
旧ユーゴスラビアのマケドニアは、難民の領内通過をシリア、イラク、アフガニスタン出身者に限って認める措置を公表しました。(写真上)

11月19日、マケドニアからセルビアに入国する際、難民が置き捨てていった衣類や身の回りの品々。(写真下・以下同じ)
難民12
11月19日、子どもを抱きかかえる、ギリシャのレスボス島にたどり着いたアフガニスタン難民。
難民13
11月19日、エクアドル、トゥングアフア火山の噴火。
Day11
11月19日、ギリシャのレスボス島に無事たどりついたことを喜び合う両親の前で、涙を流す少年。
シリア難民11
11月20日、ギリシャからの難民の入国をブロックしているマケドニアの警察官の前で、人形を持って立ち尽くす女の子。
国連難民事務所とロイター通信社によると、マケドニアは中東の紛争地帯とアフガニスタン難民にのみ領内の通過を許可し、他のアジア・アフリカ諸国の難民については国境から追い返しています。
シリア難民10
http://www.nbcnews.com/news/photo/today-pictures-november-19-n466636

【 的(まと)を外し続けるアベノミクス 】

読了までの目安時間:約 7分

発表された最新のGDPの数値は、この5年間で日本経済が4度目の不況に転落したことを明らかにした
安倍政権発足以降続く日本の二重不況の解決に、効果を発揮できなかったアベノミクス
本格的構造改革を回避した安部政権は、結局自らアベノミクスの第1第2の矢の効力を減殺

ケイティ・アレン / ガーディアン(経済部) 11月16日

日経平均01
日本は結局、経済を成長させることは出来ないようです。
発表された最新のGDPの数値は、この5年間で日本経済が4度目の不況に転落したことを明らかにしました。

この結果は安倍晋三首相にとっては打撃です。
安倍首相は2012年、いわゆるアベノミクスを看板に掲げ、長く続く日本のデフレーションを払しょくし、弱体化している日本経済を立て直すという公約を掲げて政権の座に就きました。
しかし選挙で勝利した瞬間も日本では2種類の不況が同時進行していました。
安倍政権が行なった派手な宣伝に一度は湧いた日本経済も、結局アベノミクスによって実際には何も改善しなかったことがここに来て明らかになりました。

アベノミクスの中身は、世界第3位の規模を有する日本経済において慢性的に続いている問題を、『3本の矢』、すなわち以下の3つの政策によって改善に向かわせるというものでした。
1.日本銀行による量的緩和策
2.公共事業の拡大のため、政府資金を大々的につぎ込む
3.日本経済の生産性向上と競争力強化のため、広範囲にわたる構造改革を行う

安部圧力
日本の政策担当者が学んだのは、アベノミクスが狙い通りの効果を発揮するためには、これら3つの政策が等しく実現されなければならないという事です。
金融緩和策と大規模公共投資によって時間を稼ぎ、その間により実現が困難な構造改革をするための道筋をつける予定でした。
しかし結局実際に行われたのは、日本政府と日本銀行が金を使えばよいという大規模公共投資と金融緩和だけであり、肝心の構造改革は失敗に終わりました。

進まない民間部門の設備投資や労働者不足のような長年の経済問題に正面から取り組むことを回避した安部首相とその政権は、結局大規模金融緩和についても、大規模な公共工事のための財政出動についても、その効果を減殺することになりました。

[表 : 職業別有効求人倍率の比較(厚生労働省の資料を基にIMFが作成)]
この表を見ると警備員と建設労働者不足していることが解る
アベノミクス有効求人倍率(IMF)

大規模金融緩和による財政刺激策を例として取り上げてみましょう。
政府は出費を促進し、大規模建築プロジェクトを手掛ける企業のため、より良い環境をつくることを望んでいます。
しかし日本では、その建設事業に携わるべき労働者が不足しているのです。
このため企業は労働力の確保のため、四苦八苦しています。

例えれば現在の日本経済は、燃料タンクを満タンにはしたものの、ハンド(サイド)ブレーキをかけたまま車を発進させようとしているようなものです。
財政出動も大規模金融緩和も、こうしたブレーキが日本経済の至る所にあるため、結局は効果を上げることができませんでした。

[表 : 日本の有効求人倍率の推移(厚生労働省の資料を基に作られたIMFの労働白書による)]
日本の有効求人倍率の推移
日本経済の中で、最大の問題が人口問題です。

ドイツなどの他の最先進国と同様、日本の労働人口も新たに労働力として市場に加わる人数より、引退して出ていく人数の方が多い状態が続いています。

日本の生産年齢人口は1990年代半ばから減少を続けていますが、その減少スピードには拍車がかかり、さらに4年前からは人口そのものが減少を始めました。
今や日本の各企業は必要なだけの人間を集められなくなっています。

40カ国以上で企業の採用に関わっている企業であるマンパワー・グループによれば、日本は企業に空席が出来た場合、それを埋めるのに最も苦労しなければならない国です。
世界の平均が38%であるのに対し、日本では83%の雇用主が従業員の採用に困難を感じています。(下の表)
[表 : 雇用者数確保の困難さの程度の世界比較(厚生労働省の資料を基に作られたIMFの労働白書による)]
日本雇用者数確保
日本政府は、子育て世代に対する税制上の優遇措置と育児制度の改善により、人口(少子化)問題に対する取り組みを行っていると主張しています。

しかしこうした出生率の改善が日本経済に好影響を与えるようになるまでは長い時間がかかります。
隣国中国でも一人っ子政策の廃止を宣言しましたが、出生率の改善による経済効果が現れるまで長い時間を要する点では同様です。

いずれにせよ日本が行なった出入国管理方針に関する微調整程度では、労働人口を押し上げるためほとんど効果が無かった事だけは確かです。

もう一つの課題には、これは他の先進国も同じですが、日本の最大の貿易相手国である中国の経済発展の鈍化があります。

中国との外交摩擦と世界的な景気減速による対中国輸出の減少は、もともと低迷している日本国内の経済状況と相まって、もともと慎重だった日本企業の姿勢を増々用心深いものにしています。
低迷する民間部門は、政府に対しもっと積極的な介入を求めています。

日中紛争 1
しかし安倍政権とその支持者は、民間企業こそ低迷する日本経済を成長局面に向かわせるため、もっと取り組みを強化すべきであると反撃しています。
日本政府は、日本企業に対し記録的になっている社内現金留保を取り崩し、賃金の引き上げと設備投資等の資本支出に回すよう求めています。

3本の矢、そのうちの構造改革は最も達成が困難な課題です。
しかしこの5年の間、4度目となるマイナス成長を記録してしまった今となっては、金融緩和策によって市場にカネをあふれさせることが、日本経済復活のための正しい答えでない事だけは明白です。

http://www.theguardian.com/business/economics-blog/2015/nov/16/japan-three-arrows-abenomics-recession-economy-targets-shinzo-abe

【 戦争 : 彼ら自身の中に潜む最悪の敵 : 『傲慢: 20世紀の戦争の悲劇』 】

読了までの目安時間:約 9分

軍部の思い上がり、軍政策の傲慢さが、一般市民を繰り返し地獄に送り込んだ
人種的偏見、ハイパー国家主義・軍国主義、『神州不滅』…日本人に塗炭の苦しみをもたらしたもの
他民族に対するいわれのない人種的偏見・文化的偏見は、きわめて危険な自滅的思考法
著者 : アリステア・ホーン、ヴァイデンフェルト&ニコルソン社

ブッシュイラク戦争
エコノミスト 11月7日

サー・アリステア・ホーンは年老いた賢者です。
この英国の歴史家の多くの著作の中の一冊、アルジェリア戦争とその負の遺産について書かれた本は、イラクに侵攻し4年に渡る占領を続けた挙句、各地で血で血を洗うような反乱が相次ぎ当時窮地に陥っていたアメリカのブッシュ大統領が、最良の選択をするための物言わぬ助言者として常に手元において離さなかったと言われています。
「平和な時代における野蛮な戦争:アルジェリア1954-72」を出版してから30年以上が経った2007年、ブッシュ大統領の執務室に招かれたアリステア卿はその持前の礼儀正しさから、最良の選択はそもそもイラクには手を出してはならないというアドバイスだけは言うのを控えた可能性があります。

91歳になって刊行された彼の最新の著作は、軍事の傲慢さとそれが引き起こした影響、そしてその傲慢さが20世紀の戦争においてどのような結果をもたらしたのかについて語られています。

古代ギリシア人にとって傲慢とは、自信過剰に陥った指導者が神を神とも思わなくなった自己肥大の愚かさそのものでした。
傲慢になった指導者はその後必ず情勢の急変に見舞われ、結局最後には天罰を下されることになりました。

空襲01
アリステア卿が主題としたのは、史上名高い将軍や国家主義的指導者が軍事を優先し、強力な軍事力の整備を達成した挙句、その後必ず後継者が自信過剰に陥りそして傲慢になり、国と国民に惨憺たる地獄をもたらすことになった史実です。

著者はこの主題を証明するための戦争や紛争事例には事欠かなかったようです。
しかしアリステア卿は題材を絞り込み、20世紀前半に起きた6つの戦いを選び出しました。
それらの戦いは人類史上、最も多くの血が流されたものでした。

その中に1905年、日本人がロシア艦隊を覆滅した日本海海戦が含まれています。
そして世界的にはほとんど知られていない1939年のノモンハンの戦い。
この戦いでは第二次世界大戦における傑出した将軍の一人であるゲオルギー・ジューコフ将軍が関東軍を撃破、日本はそれ以上の北方への進出を断念せざるを得ませんでした。
そして長期的に見れば成算の無い真珠湾に対する冒険的奇襲のわずか6カ月後、日本はミッドウェー海戦で決定的敗北を喫したのです。

スターリングラード01
そしてもうひとつの戦いは1941年、モスクワ郊外におけるドイツの誇るヴェアマハト(ドイツ国防軍)の敗北であり、アリステア卿はこの戦いが『緒戦の終わり』であったと見ています。
第二次世界大戦における太平洋戦線、ヨーロッパ戦線において、軍の誇大妄想がその後敵味方併せてどれ程の悪影響をもたらすことになったか、憂鬱な報告が続きます。

その最初は1950年、ダグラス・マッカーサー将軍が虚栄心に突き動かされるようにして38度線のヤルー川を強行突破した結果、中国軍の朝鮮戦争への参戦という悲惨な結果をもたらしました。

第2はその4年後、ベトナムの民族解放戦線・ベトミンのヴォー・グエン・ザップ将軍によるディエンビエンフー要塞の陥落です。
ベトナムを植民地化していたフランスは、この要塞に1916年のヴェルダン要塞並みの威力を期待していましたが、結局は陥落し、フランスの撤退を決定づけることになりました。
しかし独立派のベトナム国民の喜びもつかの間、今度はアメリカのベトナム介入を招く結果となりました。

vet01
これらの戦に共通するテーマのひとつは、戦争の動因の中に『人種的優越』という考え方があったという事実です。

19世紀から20世紀への入り口、日本は急速にな工業化を実現し、軍備についてもまた急速に整備を進め、同盟国となっていた英国も最新式の軍艦を提供するなどしていましたが、大国ロシアは日本など歯牙にもかけていませんでした。
包囲された旅順要塞の救援のため、極東に向け大艦隊を18,000マイル(約29,000キロ)も遠征させるなど、今となってみれば間違いなく愚かな行為です。
兵も軍艦も疲れ切った状態でやっとの思いでたどり着いたロシア艦隊を待ち受けていたのは、最新式の軍艦を揃え、東郷平八郎司令官以下訓練の行きとどいた兵員によって構成され、卓越した作戦を準備していた日本艦隊でした。
しかし日本はその衝撃的な勝利に酔うことによって、40年後に広島と長崎を見舞うことになる容赦ない攻撃の種をまくことになりました。

真珠湾
第二次世界大戦(太平洋戦争)において真珠湾への攻撃を立案し、ミッドウェーへと日本艦隊を勧めた山本五十六将軍は、日本海海戦において海軍の下級将校を務めていました。
山本将軍によって、そして1920年代から1930年代にかけ著しい台頭を見せその権力基盤を強化した国家主義者、軍国主義者によって1905年の日本海海戦の勝利は、いわば「神秘的なメシア信仰」として国民の間に流布され、定着させられました。
この時代、日本がアジア大陸への侵略を進めていったことは、起きるべくした起きたことだと言えるかもしれません。
武士道精神、ハイパー国家主義、そして海戦をすれば無敵という錯覚、そして『神州不滅』、これらはすべて国民に対するプロパガンダであったはずでしたが、いつしか国家の指導部までがこうした思考に支配されるようになっていたのです。
そして前世紀のヨーロッパ人がそうであったように、日本人は中国人に対し人種的優越性と文化的優位性を感じていましたが、退廃的なアメリカ人、そして植民地の白人支配層に対しても同様の感覚を持っていました。

こうした日本人の考え方について、アリステア卿はこう語っています。
「きわめて危険な、自滅的思考法」

広島14
軍の傲慢さがどれ程悲惨な結末をもたらすか、その具体例には枚挙のいとまがありません。
しかしアリステア卿の博識と卓越した表現力は、そのいちいちを的確にとらえています。
今日に至るまでの世界各地で発生している紛争もまた、その実態は似たり寄ったりです。

しかしアリステア卿の文章は読むものを退屈させません。
彼の判断を決定づけているのは、人間のうんざりさせられる愚かさに対する理解です。

もしこれから何らかの軍事行動を考えている首相やその他の政治的リーダーがいたとしたら、その全員が読まなければならないのがこの著作です。
ブッシュ大統領がもし最初からこの著作を読むことができていたら、わざわざアリステア卿の過去の著作の数々を読み漁る必要は無かったかもしれません。

http://www.economist.com/news/books-and-arts/21677604-study-military-arrogance-and-its-terrible-consequences-their-own-worst-enemy?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227
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これまでの史実は、国の指導者が軍事について慎重さの上にも慎重さをもって臨まなければならないことを語っているのではないでしょうか?
『積極的平和主義』などという広告代理店が考えたような宣伝文句の下に戦争というものを軽々しく取り扱って良いものなのかどうか、その事を真摯に考えなければなりません。

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ほんとうの「今」を知りたくて、アメリカCNN、NBC、ABC、CBS、英国BBC、ドイツ国際放送などのニュースを1日一本選んで翻訳・掲載しています。 趣味はゴルフ、絵を描くこと、クラシック音楽、Jazz、Rock&Pops、司馬遼太郎と山本周五郎と歴史書など。 @idonochawanという名前でツィートしてます。
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